医院開業コラム
クリニックの開業を成功させるためには、自分の目的や立地に合った開業形態を選ぶ必要があります。開業するにはいくつか方法がありますが、中でも比較的リスクが少ないといわれる方法が「建て貸し」です。
この記事では、建て貸しの基礎知識やクリニック開業で活用するメリット・デメリットや注意点を解説したうえで、初期投資やリスクを低減できる開業方法について解説します。
建て貸しとは?
建て貸しとは、土地を所有するオーナーがその土地に建物を建設し、土地と建物をセットで貸す手法です。建物の設計には賃借人の希望が反映される性質から「オーダーメイド賃貸」と呼ばれることもあります。
建物ごと土地を借りるため、一般的な賃貸借契約と同じように月々の賃料を支払うのが特徴です。建て貸しは事業に合った建物を土地オーナーに建ててもらいやすいため、クリニック開業方法の一つとして検討されることもあります。
なお、建て貸しは戸建てを建築するケースを見聞きする機会が多いかもしれませんが、戸建てに限らずビルタイプも存在します。
1-1 土地オーナーが建て貸しをする理由
クリニック側にメリットが大きいように思える建て貸しという手法がなぜ成立するかというと、オーナー側は「相続税対策」ができるからです。
建物(貸家)を建設していない更地の場合、土地の評価額が高くなるので、相続税として納めるべき金額もアップしてしまいます。しかし、貸家が建っている土地は「貸宅地」となり、賃貸借契約の期間中はオーナーであっても自由に活用できなくなるため、結果的に評価額が下がって節税につながるのです。
また、もう一つの理由として「遊休地の有効活用」も挙げられます。
- 駅や幹線道路から遠い
- 人通りが少ない場所にある
- 住宅密集地にあって目立たない
このような土地はマンションや店舗との相性が悪く、遊休地になるケースも少なくありませんが、クリニックには適している可能性があるのです。
建て貸しのメリット
建て貸し開業では、クリニック側は以下のようなメリットを得ることができます。
- 初期投資を抑えられる
- 賃貸物件がない場所でも開業を検討できる
- 自由に建築設計ができる
2-1 初期投資を抑えられる
建て貸し物件に入居する最大のメリットは、土地・建物にかかる費用が減ることです。
クリニックを一から建てる場合、まずは土地を取得する必要があります。立地条件が良い土地を選べば、クリニック開業に成功する可能性も高まりますが、そのような土地は需要の高さから高額になりがちです。
また、プラスで建築費用もかかるため、十分な資金を用意しなければなりません。金融機関からの融資でカバーすることも可能ですが、借入金の返済負担が重くなるというリスクが生じます。
一方、建て貸しはオーナーが建てたクリニックを土地ごと“借りる”ため、そもそも土地の取得費用や建築費用は不要です。初期投資を抑えられる分、融資による借入金も少なくて済むので、開業後の経営を早期に安定させやすいのがメリットです。
2-2 賃貸物件がない場所でも開業を検討できる
郊外などクリニックが入居できそうなビルが存在しない、条件の良い医療モールがすべて埋まっているなどの状況であっても、建て貸しなら開業できる可能性があります。土地活用を考えているオーナーを探して交渉する必要はありますが、賃貸物件がない場所でもクリニックを建てられるケースがあります。
ただ、院長自身は病院勤務やクリニック開業前の準備で忙しいケースが多いため、自ら土地を探して交渉を行うことは難しいかもしれません。また、オーナーとの交渉を有利に進めるためには、不動産や法律に関する専門知識が求められるので、実績のある開業コンサルタントなどに依頼しましょう。
2-3 自由に建築設計ができる
戸建て物件を建ててもらう場合、建物の設計に関して賃借人である院長の希望が通りやすい点もメリットです。もちろん予算内ではありますが、オーナーとの交渉によって広さやデザインを調整できます。
- 全館バリアフリー仕様にする
- 想定される患者層に合わせた安心感のある内装デザインにする
- パウダールームや授乳室を設ける
- 駐車場用のスペースを広く確保する
このような希望条件を伝えて建築設計ができるため、自分が理想とするクリニックを実現しやすいでしょう。
また、建て貸しかどうかは患者や地域住民から見てもわからないため、戸建ての新しいクリニックという印象を与えることができます。
建て貸しのデメリット
建て貸し開業は有益なメリットを得られる一方、以下のようなデメリットも考えられます。
- 開業までに時間がかかる
- 連携できる医療機関や調剤薬局が近隣にない可能性がある
- 立地条件が悪いケースも
- 契約期間が長期になるのが一般的
3-1 開業までに時間がかかる
建て貸しでクリニックを開業するためには、空いている土地を探したうえで、オーナーと交渉しなければなりません。そのため、他の方法と比べると開業までに時間がかかる可能性もあります。
どれくらいの時間を要するかは、開業場所や希望条件によって変動しますが、土地探し・交渉・建築という3つのステップで、少なくとも1年以上はかかると見込んでおきましょう。
また、クリニックの開業前は事業計画の策定やスタッフの採用など、他にもやるべきことが多いため、それを踏まえたスケジュール調整が必要です。
3-2 連携できる医療機関や調剤薬局が近隣にない可能性がある
患者に包括的な医療サービスを提供するためには、他の医療機関との連携が必要不可欠です。しかし、建て貸しで使える土地の場所によっては、連携できる医療機関が近くにない可能性もあります。
また、クリニック経営における重要施設といえば、調剤薬局も忘れてはいけません。調剤薬局が近くにない場合、院長自ら誘致するか、院内処方で対応する必要があります。
ただし、事業者が企画開発する医療ビレッジ(戸建て物件が集まった医療モール)の場合、これらの問題を解決できます。土地探しを行う際は、医療ビレッジの情報もチェックしましょう。
3-3 立地条件が悪いケースも
オーナーが建て貸しを検討するような遊休地は、そもそも立地条件が悪いケースも少なくありません。
クリニック開業の成否は立地条件によって大きく左右されます。以下のような条件が当てはまる土地の場合、集患に苦労する可能性もあるため、あらかじめ自分できちんと調査することが大切です。
- 交通アクセスが極端に悪い
- ターゲットとなる患者層の人口が少ない
- 医師の供給が需要を上回っている
- 競合するクリニックが多い
- 地域住民の生活動線上にない
- 周囲からの視認性が悪い
需給バランスや競合の存在は診療圏調査で明らかにできるので、必ず実施しましょう。
3-4 契約期間が長期になるのが一般的
建て貸し開業の場合、賃借人の希望に沿ってオーナーがクリニックを建てるため、10年以上の長期契約を前提とするケースが一般的です。
オーナー側からすれば、自ら建築費用などを負担したうえで、クリニック以外の転用が難しい建物をわざわざ建てることになるので、短期間で撤退されると大損失を被りかねません。そのため、開業後に経営が軌道に乗らず閉院・途中解約となった場合、ペナルティとして多額の違約金が発生することもあります。
安定したクリニック経営を実現させるためには、開業前に綿密な事業計画を立てるのはもちろん、ある程度の運転資金を準備しておくことも大切です。
建て貸し開業の流れと注意点
建て貸し開業の一般的な流れは、以下の通りです。
- 仲介業者を探す
- 建て貸し可能の土地を探す
- 調剤薬局の有無・誘致について確認する
- 診療圏調査を実施する
- オーナーとの交渉を行う
- 契約内容を確認する
- 賃貸借契約を締結する
最初にやるべきことは、建て貸し開業をサポートしてくれる仲介業者の選定です。契約実績やサービス内容はもちろん、口コミ評判もチェックしましょう。
仲介業者が決まったら、土地探しや診療圏調査、周辺の医療機関・調剤薬局の確認を行います。業者に任せっきりではなく、自分でも現地に赴くなどして詳細にチェックすることが大切です。
開業したい土地が決まったら、仲介業者のサポートも受けつつ、希望条件や賃料についてオーナーと交渉します。交渉後は各種契約条件について確認し、問題がなければ契約締結の手続きを進めましょう。
4-1 契約内容をきちんと確認する
建て貸しは土地・建物という高額な資産を借りる行為であり、なおかつ10年以上の長期契約を結ぶのが基本なので、事前に契約内容をきちんと確認することが大切です。交渉時に細かく確認すべきポイントをまとめました。
- 契約期間
- 更新・解除条件
- 途中解約時の違約金
- 退去時の原状回復義務
- 建築協力金
- 賃料
- 敷金・保証金
- オーナー・賃借人の修繕負担範囲
- 施工・竣工時期
また、契約内容を決める際は、万が一の事態に備えた特約事項も検討する必要があります。例えば、「契約期間中に病気で仕事ができない状態になった場合、医院継承で引き続き賃料を支払えるようにすれば違約金は発生しない」、といった条文を入れておくと安心です。
4-2 建て貸し開業でかかる費用
オーナーが所有する土地・建物を借りるという性質上、建て貸し開業は原則として土地の取得費用や建築費用がかかりません。その代わり、土地の利回りと建築費用を踏まえた月々の賃料、一般的な賃貸物件と同じように敷金や保証金を支払う必要があります。
さらに、内装工事費用・設計費用・看板代などはクリニック側が負担するのが一般的です。建築にかかわる費用をオーナーがすべて負担してくれるわけではないので注意しましょう。
また、仲介業者にサポートを依頼する場合、手数料などがかかりますが、契約締結に至ったときに支払いが発生する成功報酬制であるケースが多いようです。建て貸しに限らず、クリニック開業をスムーズに進めるために、専門家によるサポートは受けるべきでしょう。
4-3 建設協力金がかかるケースも(リースバック方式)
建設協力金とは、賃借人(クリニック)が土地オーナーに無利子あるいは低金利で貸し付けるお金です。このお金を建築費用にあてて、賃借人のために建物を建てることを「リースバック方式(建設協力金方式)」といいます。
建て貸しではオーナーが建築費用を負担しますが、自己資金だけで賄いきれないケースもあります。しかし、リースバック方式で院長から建設協力金を借りれば、オーナーは資金不足を解消することが可能です。
また、リースバック方式の場合、オーナーから支払う建設協力金の返済分と、クリニックから支払う賃料が相殺されるので、結果として月々の賃料が安くなる可能性もあります。ただし、クリニック側からすると、初期費用が増えて建て貸しのメリットが低減される点には注意が必要です。
初期投資やリスクを抑えてクリニックを開業する方法
クリニックを開業する場合、建て貸しが必ずしも自分に合っているとは限らないため、他の開業方法も含めて検討することが大切です。
ここからは、初期投資やリスクを抑えられる開業方法を2つ紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
5-1 医療モール
医療モールとは、診療科の異なる複数のクリニックと調剤薬局を一箇所に集めた医療施設のことです。
近年、医療モールは都市部を中心に増加しています。基本的に立地条件が良い場所で展開されるケースが多く、交通アクセスや視認性に優れているため、効率的に集患できることが大きな強みです。さらに、複数のクリニックが入っているので他科との連携がしやすい、共有設備があるので初期投資を抑えやすいといったメリットもあります。
5-2 既存のビルテナント
すでに建設されているビルにテナント入居して、クリニックを開業する方法もあります。
ビルテナントも好立地の物件がそろっているうえ、戸建て物件と比べて開業場所の選択肢が幅広いため、患者層やライフプランに合わせて選ぶことが可能です。さらに、医療モールと同じく初期投資を抑えやすい、移転や撤退がしやすいというメリットもあります。
一方、医療モールと違ってクリニック以外のテナントも入るため、医療に似つかわしくない店舗や施設と共存する可能性もあります。また、ビルの外観デザインによっては、クリニックが入居していることがわかりにくいケースもあるかもしれません。
ビルテナントを選ぶ際は、クリニック開業に適した物件かどうか見極めることが大切です。ビル内に医療機関と調剤薬局のみが入居する「医療ビル」という選択肢もあります。
クリニック開業は日本調剤にご相談ください
建て貸しはクリニック開業における選択肢の一つですが、初期投資を抑えやすい、自由に建築設計ができるといったメリットがあります。一方、立地条件や契約期間におけるデメリットも存在するため、目的や現状によっては他の開業方法を検討すべきです。
自分に適している開業方法がわからない場合、まずは開業コンサルタントに相談してみましょう。経営や集患に関するノウハウを活かした、的確なアドバイスを受けることができます。
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