医院開業コラム
開業医として働くにあたり、居抜き物件での開業を考えている先生も多いのではないでしょうか。クリニックの開業方法はさまざまですが、費用や時間をかけたくないなら居抜き物件はおすすめです。しかし、経営におけるリスクもあるので、慎重に検討する必要があります。
今回の記事では、居抜き物件の基礎知識を踏まえつつ、主なメリット・デメリットや開業成功のポイント、居抜き以外に初期費用や手間を軽減できる開業方法について解説します。
居抜き物件とは
居抜き物件とは、前の入居者が使用していた内装や設備を残したまま、その物件を売買あるいは賃貸借することです。クリニックの居抜きであれば、院内のインテリアや医療機器をそのまま利用できることがあります。
通常の新規開業でも居抜きでの開業でも、拠点となる物件は自分で探して決めなければなりません。通常の新規開業の場合、内装・設備・備品などがすべて撤去された「スケルトン」の状態で引き渡されるのが一般的です。スケルトン物件は建物の骨組みしか残っていないため、開業する際は内装や設備を一から整える必要があります。
一方、居抜き物件は最初から内装や設備がある程度整っているので、スケルトン物件よりスムーズに開業しやすいといえます。
居抜き開業のメリット
居抜き開業のメリットは以下の通りです。
- 初期費用を抑えられる
- 開業までの期間を短縮できる
- 集患に有利になる可能性がある
- 保健所の許可が下りやすい
それぞれ詳しく解説します。
2-1 初期費用を抑えられる
居抜き物件でクリニックを開業すると、先述の通り院内のインテリアや医療機器をそのまま引き継いで使えることが多いです。そのため、内装工事や設備導入にかかる初期費用を抑えられるのがメリットです。
診療科や立地条件によって変動しますが、クリニックの新規開業には多大な資金が必要となります。土地・建物はもちろん、医療機器や家具なども用意しなければならないため、何かとお金がかかりがちです。すべて一から調達しようとすると、それだけで数千万円かかるケースもかかるケースも珍しくありません。
一方、居抜き物件は開業資金で大きなウエイトを占める初期費用が減るので、その分だけ資金にも余裕が生じ、開業後の収支が安定しやすくなります。
2-2 開業までの期間を短縮できる
居抜き物件はすでに内装が整っており、なおかつ医療機器や什器・備品など必要なものが一通りそろっているため、物件取得から開業までの期間を短縮できるのもメリットです。
クリニックを開業する場合、物件探しや医療機器の手配に加えて、事業計画の策定・資金調達・スタッフ採用・行政手続きといったタスクも発生します。ほとんどの医師は勤務医として働きつつ、空いた時間で開業準備を進めることになるため、開業までに1年以上の期間を要するケースも多いのです。
その点、居抜き物件は内装や設備がすでに整っているので、一から準備するケースに比べると期間も短く済みます。
2-3 集患に有利になる可能性がある
居抜き物件を選ぶと、以前のクリニックの認知度をそのまま活かせる可能性もあります。
同じ場所でクリニックを開業した場合、その地域の住民から認知してもらいやすいうえ、転院した患者さまが戻ってくるケースも多いため、結果的に集患で有利になることが期待できるのです。開業時のスタートダッシュは経営安定において重要なポイントなので、最初から患者さまを確保しやすい点は大きなメリットといえるでしょう。
また、以前のクリニックが繁盛していたり、レビューサイトや口コミで高評価を獲得していたりする場合、自分のクリニックも恩恵を受けることができるかもしれません。開業時から集患が見込めれば、経営の見通しも立てやすくなるでしょう。
2-4 保健所の許可が下りやすい
クリニックを開業する際は、保健所に「開設許可申請」を提出しなければなりませんが、申請後に保健所の職員による立入検査が行われます。
この立入検査では、クリニックの管理体制やスタッフの状況に加えて、内装や設備もチェックされます。床材や手洗い場といった細かい部分も検査項目に含まれますが、通常の新規開業だと何らかの問題が見つかって、開業までに対応を求められるケースもあります。
一方、居抜き物件は既存の建物やレイアウトで開業していて、なおかつ過去に一度は立入検査をクリアした実績があります。そのため、居抜き開業する際の立入検査もスムーズに終わり、保健所の許可が下りる可能性は高いといえるでしょう。
居抜き開業のデメリット
居抜き開業はメリットだけではなく、以下のようなデメリットも想定されます。
- 内装やレイアウトを自由に設計できない
- 医療機器や設備の老朽化
- 以前のクリニックの評判が足枷になる可能性がある
これらのデメリットについても詳しく解説します。
3-1 内装やレイアウトを自由に設計できない
居抜き物件でクリニックを開業する場合、以前のクリニックが使っていた建物をそのまま引き継ぐことになります。つまり、内装やレイアウトは最初から決まっているため、自由に設計できない点がデメリットです。
クリニックの内装やレイアウトは、患者さまの印象や動線のみならず、スタッフの作業効率にも影響します。そのため、診療内容や医療機器の配置を踏まえつつ、快適・最適な環境を作らなければなりませんが、居抜き物件だと思うように設計できない可能性が高いのです。
内装やレイアウトが気に入らない場合、自分なりに変更することも可能ですが、当然ながらコストが発生するので、初期費用を抑えられるというメリットが帳消しになってしまうかもしれません。
3-2 医療機器や設備の老朽化
医療機器や設備をそのまま引き継げることは居抜き物件のメリットですが、一方で老朽化が進んでいるケースもあります。開業当初は問題なく使えても、早い段階で何らかの不具合が発生する可能性もあるので注意しなければなりません。
もし医療機器や設備が故障した場合、修理あるいは買い替えが必要になり、追加のコストが発生します。初期費用を抑えて開業するはずが、逆に修理費用や購入費用がかさんでしまうこともあるのです。
また、医療機器や設備の型式が古すぎて取り扱いやメンテナンスに困るケースもあります。仮に使用できたとしても、最新機器より機能が劣るといった問題も考えられるでしょう。処分する場合は、廃棄コストがかかる可能性もあります。
3-3 以前のクリニックの評判が足枷になるケースも
以前のクリニックの評判が良かった場合、自分のクリニックにも恩恵が期待できます。しかし、逆に評判が悪かった場合、ネガティブなイメージをそのまま引き継いでしまうリスクもあるので、開業医にとって大きな足枷になりかねません。
- 医師が話を聞いてくれなかった
- 看護師や受付の応対が冷たかった
- 処置が下手だった
- 診療内容が疑わしい
- 待ち時間が長かった
- 院内に清潔感がない
以前のクリニックの患者さまが上記のようなマイナスのイメージを抱えていた場合、名称や院長が変わっても、過去の印象に引きずられてしまい、開業後の集患に悪影響を及ぼす恐れがあります。
居抜きでクリニック開業を成功させるポイント
居抜きでクリニック開業を成功させるポイントは、以下の4つです。
- 立地条件や周辺環境を調査する
- 建物や設備の状態を入念にチェックする
- 前のクリニックの評判をチェックする
- 信頼できる専門業者に相談する
それぞれ詳しく解説します。
4-1 まずは立地条件や周辺環境を調査する
クリニック開業を成功させるために最も重要なポイントは「立地条件」です。どれほど高度な医療技術を持っていても、いかにこれまで優れた実績を残していても、クリニックの立地条件が悪ければ集患は難しくなります。
居抜き物件を選ぶ際は物件ありきではなく、診療コンセプトやターゲットの患者層などを考慮したうえで、開業エリアを慎重に選定しましょう。患者さまが訪れやすいエリアを把握するため、診療圏調査も実施したいところです。
また、クリニックの周辺環境もチェックしましょう。最寄り駅からの距離やスーパー・コンビニの有無、競合クリニックの有無などを踏まえつつ、地域住民の生活動線にある立地を選ぶと、効率的に集患しやすくなります。
4-2 建物や設備の状態を入念にチェックする
居抜き物件は以前のクリニックが使っていた建物や設備を引き継ぐので、必ず一度は現地に赴いて細かい部分まで状態を確認しましょう。机上の情報だけで判断すると「ここまで古いとは思わなかった…」など、想定外の状況に陥る可能性もあります。
特に建物や設備に明らかな瑕疵がある場合、事後報告だと責任の所在をめぐってトラブルに発展しやすいため、あらかじめ把握して対策を講じたいところです。修理や買い替えが必要であれば、そのコストもきちんと見積もったうえで、居抜きでのメリットを十分に享受できるか検討しましょう。
また、リース品の医療機器を使用していた際は、後々のトラブルを避けるため、契約内容や権利の継承についても確認する必要があります。
4-3 前のクリニックの評判をチェックする
居抜き物件の場合、以前のクリニックの評判が良くも悪くも影響します。そのため、可能なら口コミや物件の紹介業者から情報を得て、事前に評判をチェックしたいところです。
もちろん、以前のクリニックの評判が悪いからといって、その居抜き物件が必ずしも不適格というわけではありません。立地条件が極めて良かったり、建物や設備がきれいに維持されていたりするなど、他のポイントが優れている可能性もあるので、総合的に判断しましょう。
4-4 信頼できる専門業者に相談する
クリニックを開業する場合、立地条件の良し悪しや物件の相場、開業エリアの地域事情といった情報を押さえる必要があります。正確な情報を手に入れたいなら、物件のメリット・デメリットをきちんと教えてくれる、信頼できる専門業者に相談したいところです。
専門業者を選ぶ際は、信頼できる業者かどうかきちんと見極めましょう。ホームページなどを確認して、実際のサポート内容や開業事例を確認することも重要です。
また、居抜き物件が必ずしも最適解とは限りません。そのため、自分の状況に合わせて居抜き以外の選択肢も幅広く提案してくれる専門業者が望ましいといえます。
居抜き以外で初期費用や準備の手間を抑えられる開業方法
クリニック開業における初期費用や準備の手間を抑えたい場合、居抜き以外にも「医療モールでの開業」や「医院承継」といった選択肢もあります。
5-1 医療モール
医療モールとは、異なる診療科のクリニックと調剤薬局を一か所に集めた複合型医療施設のことです。建物がクリニックの開業に適した設計になっているので、近年は医療モールでの開業事例は増加傾向にあります。
単独開業のクリニックとは違い、医療モールは看板や駐車場といった設備を他のクリニックと共有できるケースもあります。水道や電気もクリニック向けに整備されているので、初期投資を抑えることが可能です。
内装デザインや院内の設備については、居抜き物件より自由に決められるため、理想のクリニックを実現しやすい点もメリットです。
5-2 医院承継
医院承継とは、引退する医師から既存のクリニックを譲り受けることです。以前は子供や孫を対象にした「親族内承継」がメインでしたが、近年は親族以外の医師を対象にした「第三者承継(M&A)」が増加しています。
医院承継の場合、クリニックの建物や設備だけではなく、スタッフや患者さまも一緒に引き継げる可能性があります。最初から業務に習熟したスタッフを雇える、安定した集患が見込めるといった点は居抜き物件にはないメリットです。
ただし、診療コンセプトや経営理念が前院長と異なる場合、既存のスタッフが反発して辞めたり、患者さまが離れてしまったりする可能性もあります。また、建物・設備の老朽化や前医院の評判の問題など居抜き物件と同様のデメリットもあるため、慎重な検討が必要です。
クリニック開業に適した物件なら日本調剤にお任せください
居抜き物件は初期費用や準備期間を抑えられる、保健所の許可が下りやすいといったメリットがある一方、設計の自由度や設備の老朽化などのデメリットもあります。実際に居抜き物件を選ぶ際は、メリット・デメリットを踏まえつつ、立地条件なども加味して検討することが大切です。
日本調剤では集患しやすい医療モールをはじめ、居抜き物件や承継物件も含めて開業を成功に導く優良物件を多数紹介しています。開業に関するトータルサポートも無料で行っているので、お気軽にご相談ください。
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