医院開業コラム
クリニックを開業する場合、法律・条例のルールに沿って、診療内容やターゲットの患者層に合った内装設計を考えることが大切です。設計にこだわることは、効率的な診療を行い、集患やリピート患者獲得にもつながります。しかし、理想のクリニックを実現させるにあたって、どう設計すべきか迷っている先生も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、クリニック設計における法規制や注意点、診療科目ごとの重要ポイント、適切な物件の選び方について解説します。
クリニック設計における法規制
クリニックの設計を検討する際は、あらかじめ以下のような法律・条例を押さえておく必要があります。
- 建築基準法
- バリアフリー法
- 地方自治体ごとの条例
- 消防法
法規制の基本的な内容をそれぞれ解説します。
1-1 建築基準法
建築基準法とは、建物の建築・利用に関するルールを定めた法律です。クリニックとなる建物については、病床(入院用ベッド)の有無によって基準が大きく異なります。
入院用ベッドを1床でも設置している場合、そのクリニックは建築基準法上の「特殊建築物」に該当します。特殊建築物とは、特殊な構造・設備を持っている公共性の高い建物を指しますが、立地条件や防火設備などに厳しい基準が設けられていることが特徴です。
一方、病床ゼロのクリニックは「一般建築物」として扱われるので、特殊建築物に比べると建築の自由度が高くなります。
1-2 バリアフリー法
バリアフリー法とは、身体が不自由な方でもスムーズに移動・行動できるよう、街や建物のバリアフリー化を推進する法律です。正式名称は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」となります。
今後クリニックを建築・増改築する場合、バリアフリー法の規定に沿って設計しなければなりません。例えば、車椅子を利用している方が移動で困らないよう、建物の出入口にスロープを設置したり、廊下幅やトイレを広くしたりするといった対策があります。
1-3 地方自治体ごとの条例
建築基準法やバリアフリー法は国が定めているルールですが、これ以外に地方自治体が制定している「まちづくり条例」を守らなければならないケースもあるので要注意です。
例えば、東京都の「建築物バリアフリー条例」は、すべての病院・有床診療所および500㎡超の無床診療所を対象に、バリアフリー法の基準適合義務を定めています。
まちづくり条例の内容は自治体ごとに異なるうえ、他の法律と矛盾している可能性もあるため、事前に確認しましょう。
1-4 消防法
消防法とは、火災から国民の生命や財産を守るとともに、火災や地震による被害を最小限に抑えることを目的とする法律です。
クリニックの場合、誘導灯・防災加工は必須とされています。さらに、延べ床面積や収容人数に応じて、消火器具・避難器具・自動火災報知機・スプリンクラーなども設置しなければなりません。
なお、消防法においては有床・無床のどちらも法規制の対象。有床診療所の定義は「4人以上の患者を入院させる施設を有する診療所」です。
クリニック設計の注意点
クリニック設計では、以下のような注意点があります。
- 診療コンセプトに沿った設計を意識する
- 空間ごとのゾーニング
- 患者さま・スタッフに配慮した動線設計
- 電気・空調・水道設備
- 診療所の構造設備基準
以下に、それぞれ概要をまとめました。
2-1 診療コンセプトに沿った設計を意識する
クリニックに必要な設備や空間設計、適切なインテリアデザインは診療内容やターゲットの患者層によって変わります。そのため、開業時に策定した診療コンセプトを踏まえつつ、内装設計を考えることが大切です。
「誰のために」「何のために」「どのような医療を提供するか」といった想いを設計に反映することで、患者さまのクリニックに対するイメージが向上しやすくなります。その結果、リピート率や口コミ評価の向上にもつながるため、経営の観点からも重要です。
2-2 空間ごとのゾーニング
ゾーニングとは、機能や用途によって建物内の空間をいくつかの「ゾーン」で区分し、各ゾーンの役割・特性に応じて配置や広さ、レイアウトを決めることです。
クリニックは医療サービスを提供する場所なので、衛生面を意識しながらゾーニングを考える必要があります。特に、清潔区域の汚染区域の区別は、感染拡大防止において重要なポイントです。
また、症状や治療内容は個人情報なので、ゾーニングではプライバシー保護に配慮することも大切です。
2-3 患者さま・スタッフに配慮した動線設計
クリニックでは、患者さまがリラックスして過ごせる院内環境を作ることが大切です。一方、クリニックの主な目的は質の高い医療サービスを提供することなので、スタッフのスムーズな作業動線も確保しなければなりません。
つまり、クリニックの動線設計は「患者さまにとっての快適性」と「医師・スタッフにとっての利便性」の両方に配慮する必要があります。患者さまとスタッフの動線を分けるなど、お互いにストレスが生じない設計を考えましょう。
2-4 電気・空調・水道設備
クリニックの構造・設備要件は、一般的な事務所・店舗とは異なります。特に電気・空調・水道設備については、間取りや医療機器によって満たすべき要件も変わるため、改修工事などができるかどうか確認必須です。
例えば、MRIやCTといった大型医療機器を導入する場合、電気容量をオーバーしてしまうケースがあるので、必要に応じて容量増設工事を依頼します。
また、空調設備や給排水設備については、物件の構造次第で工事費用が高くなってしまう可能性もあるため注意が必要です
2-5 診療所の構造設備基準
クリニックの設計を考える場合、診療所の構造設備基準も押さえておく必要があります。基準の一例を紹介します。
- テナントの場合、診療所と他の場所(ビルの廊下など)が明確に区画されていて、天井部分まで仕切りがある
- 診察室・待合室・廊下などがそれぞれ独立している
- 居宅で開業する場合、診療所と居宅の出入口が別々であり、なおかつ廊下などを共有せず明確に区画されている
- 診察室に給水設備がある
また、院内での薬剤保管および医療機器の導入に関しても、医療法などで構造設備基準が定められているため、よく確認しましょう。
診療科目ごとのクリニック設計のポイント
診療科目が異なると、使用する医療機器や患者さまのイメージが変わるので、内装設計のコツや注意点も変わってきます。
そこで、診療科目ごとにクリニック設計の重要ポイントを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
3-1 内科
内科は最もメジャーな診療科であり、老若男女問わず多くの患者さまが来院します。そのため、診療の質を下げることなく回転率を上げたいところです。例えば、診察室と処置室の距離を近くしたり、受付の動線をシンプルに設計したりすると、よりスムーズに診療できるようになります。
また、高齢の患者さまは車椅子や杖を使っているケースが多いため、出入口にスロープを設置したり、院内の段差を極力減らしたりするなど、バリアフリーへの配慮も大切です。
3-2 循環器内科
循環器内科は慢性疾患を抱える患者さまが多く、再診率も比較的高めです。診察前に採血やX線検査を行うケースが多いので、専用の検査室をそれぞれ用意するとともに、受付から検査室までの動線もシンプルにする必要があります。心電図検査などで患者さまの服をめくる機会もあるので、プライバシーにも配慮しましょう。
また、心臓疾患で息が上がりやすい患者さま、車椅子を使う患者さまも来院するため、廊下幅を広くしたり、段差を極力減らしたりすることも大切です。
3-3 消化器内科
消化器内科の場合、一般的に診察が終わってから検査・治療を実施するため、診察室から各検査室や処置室へとスムーズに移動できる動線を作りたいところです。患者さまに下剤を服用してもらう場合、トイレも多めに設置しなければなりません。
また、がん検診などで内視鏡を使用する場合、周りを気にせずリラックスして検査を受けてもらうために、プライバシーに配慮した検査室を用意するといいでしょう。
3-4 脳神経外科・脳神経内科
脳神経外科・脳神経内科はMRIやCTといった大型医療機器を導入するかどうかで、必要なスペースや電源容量が変わってきます。そのため、診療内容や医療機器を踏まえつつ、内装設計の具体的なプランを決めることが大切です。
また、しびれや麻痺を抱える患者さまの治療・リハビリを行う場合、院内をスムーズに移動できるよう、内装は平面構成にする必要があります。頭痛やめまいを抱える患者さまも来院するので、照明の明るさやインテリアの色にも配慮しましょう。
3-5 小児科
小児科は赤ちゃんや幼児を診療する場所なので、子供たちにとって安全な空間を作ることが大切です。壁や床にクッション性が高い素材を使う、カウンターや棚の角を極力なくすといった対策を講じる必要があります。
さらに、保護者の目線から考えた場合、キッズスペースや授乳室を設置したり、ベビーカーの移動スペースや置き場を確保したりして快適性を高めることで、来院数増加につながります。また、子供は感染症にかかりやすいため、動線やレイアウトを工夫して院内感染を防ぐことも重要です。
3-6 耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は他の診療科より施設数が少ないものの、来院患者数は多いとされています。そのため、短時間で多くの患者さまに対応できるよう、診察ユニット周辺で検査・治療を完結できる動線にしたり、診察室からクリニック全体の様子を把握できる設計にしたりするといいでしょう。
また、待ち時間が発生する可能性もあるので、来院患者数が多いことを踏まえて、待合室は広めに設計しましょう。親子で来院するケースも多いため、テレビやキッズスペースの設置もおすすめです。
3-7 皮膚科
皮膚科は保険診療・自費診療のどちらをメインにするかで、クリニックの設計も変わってきます。
保険診療がメインの場合、診療単価が低く回転率を上げる必要があるため、診察室周りの動線をシンプルにしたり、待合室を広めに設計したりします。また、感染症で訪れる患者さまが多いことを考慮すると、スリッパと下足入れは設置せず、靴のまま入室していただいたほうが望ましいケースもあります。
一方、自費診療がメインの場合、パウダールームやレーザー治療器用の処置室などが必要なので、早めに調整しておきましょう。
3-8 眼科
眼科はさまざまな検査機器を用いるうえ、将来的に新しい機器を導入するケースも少なくありません。さらに、診察・検査・治療といった各プロセスで部屋を移るケースが多いので、患者さまの動きも複雑化しやすい傾向にあります。
このような事情を踏まえると、機器や配線のレイアウトを変更しやすい設計にする、患者さま・スタッフの動線を分けるといった対策が必要です。
また、車椅子や視覚障がいの患者さまに向けたバリアフリー化も欠かせません。
3-9 整形外科
整形外科は診療メニューが豊富であり、なおかつ患者さまの目的も多岐にわたります。X線検査や尿検査を受ける、院長の診察を受けるといったパターンを踏まえつつ、受付から目的の場所までスムーズに誘導できる設計にすることが大切です。
また、整形外科は怪我をしている患者さまがメインなので、松葉杖や車椅子を使うケースもよく見受けられます。院内をできるだけ平面にしたり、出入口や廊下幅を広くしたりすると、患者満足度の向上につながるでしょう。
3-10 精神科・心療内科
精神科・心療内科の場合、通院していることを知られたくない患者さまが多いので、クリニック設計もプライバシーに配慮する必要があります。そのため、ビルテナントの上階や駅から少し離れた場所での開業がおすすめです。
内装設計では、万が一患者さまが乱行に及ぶ可能性を考慮し、医師・スタッフがすぐ避難できるよう、各部屋に出入口を2つ以上設けるなどの対策を講じます。また、患者さまが落ち着いて話せるよう、壁紙の色や仕切りの位置にも配慮したいところです。
3-11 産婦人科
産婦人科の場合、分娩室・手術室・新生児室・授乳室など、機能別にさまざまな部屋があります。診療内容によって必要な機能は大きく変わるため、それを踏まえて内装設計を決めることが重要です。
有床診療所で出産に対応する場合、病室や廊下幅を広く設計しておけば、患者さまをベッドごと運びやすくなります。出産後は患者さまにリラックスして過ごしてもらう必要があるので、病室のレイアウトや食事の提供方法なども踏まえて、快適性の高い設計を考えましょう。また、24時間出入り可能なビルへの入居が必須になります。
内装設計まで見据えて物件を選ぶ
クリニックの物件を選ぶ際は、立地条件・患者層・診療圏・地域事情などに加えて、内装設計も考慮しましょう。一般的な事務所・店舗向けの物件だと、クリニックに求められる構造設備基準を満たしていなかったり、改修工事が難しかったりする可能性もあります。
医療モールや医療ビル、居抜き物件なら上記の問題は最初からクリアできているため、内装設計に関する要望も通りやすいことがメリットです。設備やデザインにこだわりたいなら、これらの物件を探しましょう。
クリニック開業は専門のコンサルタントへの相談が安心
クリニックの設計は医師・スタッフのみならず、患者さまにも多大な影響を与えます。しかし、院長自身が設計に関する法規制や注意点をすべて理解したうえで、開業準備を進めることは大変です。失敗のリスクを抑えるためには、開業専門のコンサルタントに相談しつつ、物件の選定・設計について考えることを推奨します。
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