医院開業コラム
一般的に医師は高給取りの職業というイメージが定着していますが、実際のところ勤務医としての収入に物足りなさや課題を感じている先生も多いのではないでしょうか。
勤務医がより多くの年収を得るためには、ただ闇雲に働き続けるのではなく、転職や開業といった選択肢も検討することが大切です。
今回の記事では、勤務医の年収に関する実際のデータを年齢別や地域別に分けて紹介しつつ、勤務医が年収をアップさせる方法について解説します。
- 1.医師の平均年収
- 2.【年齢別】医師の年収と勤務医の働き方
- 3. 【地域別】医者の平均年収
- 4. 【経営母体別】勤務医の平均年収
- 5.勤務医が年収をアップさせる3つの方法
- 6.【診療科別】開業医の年収ランキング
- 7.年収2,000万以上を目指すなら開業がおすすめ
医師の平均年収
厚生労働省が公表した「令和4年賃金構造統計調査」によれば、医師の平均年収は1,428万8,900円です。こちらは企業規模10人以上の医療機関を調査したデータなので、基本的に病院で働いている勤務医の平均年収の目安となります。
また、医師の平均年収を男女別に見てみると、男性が1,514万8,100円、女性が1,138万3,700円です。女性医師のほうが低い理由の一つとしては、出産や育児による勤務日数・時間の減少が考えられます。
1-1 勤務医の平均年収
厚生労働省が2021年11月に公表した「第23回医療経済実態調査」によると、勤務医の平均年収は一般病院だと1,467万8,978円、一般診療所だと1,068万5,590円です。
なお、医師の年収は勤務先によって異なるのはもちろん、年齢・地域・経営母体といった要素の影響を受けて変動する可能性もあります。勤務医もキャリアや働き方次第で年収アップを実現できるため、平均年収はあくまで目安として押さえておきましょう。
1-2 勤務医の平均月収と手取り
勤務医の平均月収に関しては、上記で紹介した平均年収から賞与分を除き、さらに12で割ることで算出できます。「第23回医療経済実態調査」によれば、勤務医(一般病院)の平均年収が1,467万8,978円、平均賞与が153万1,958円なので、平均月収の計算式は以下の通りです。
(14,678,978円-1,531,958円)÷12ヶ月=1,095,585円
なお、実際は税金や保険料などが控除されるので、手取りは平均月収から3割ほど減少します。
【年齢別】医師の年収と勤務医の働き方
先述の通り、医師の年収は年齢によって変動するため、自分の年齢に合わせてキャリアプランを検討することが大切です。
そこで、医師の年収と勤務医の働き方を年齢別(20代~50代以上)に解説します。
※記載している医師の平均年収は、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」を参考にしています。
2-1 20代
医師の平均年収は20代後半で696万1,700円です。
医学部は6年制なので、卒業は最短でも24歳となります。さらに、卒業後2年間は研修医として働くことになるため、初期臨床研修の修了は26歳が最短です。
研修期間が終わると、多くの医師は医局に残って学位取得を目指します。しかし、2018年から「新専門医制度」が始まって以降、専門医の資格を取得するため、専攻医として働く医師も増えています。専攻医が学ぶ専門研修プログラムは3~5年間で構成されるため、専門医になれるタイミングは最短でも29歳です。
このように医師の20代は今後のキャリアを見据えた準備期間なので、平均年収も低くなっています。
2-2 30代
医師の平均年収は30代前半で969万1,700円、30代後半で1,420万9,300円です。30代前半の時点でも、20代の頃より年収が大きく増加しています。
30代は医師としての経験やスキルはもちろん、体力的にも充実してくる時期です。医療の第一線を任されるので、残業や当直を引き受ける機会も増えますが、その分だけ給料も上がりやすいといえるでしょう。
また、30代はまだまだ将来性が期待される時期なので、さらなるキャリアアップのために転職したり、自分でクリニックを開業したりする医師も数多く見受けられます。開業医として働く場合、年齢的に金融機関からの融資も受けやすいのもポイントです。
2-3 40代
40代前半の医師の平均年収は、1,474万5,600円、40代後半で2,005万円です。40代前半は30代後半と大きな差はありませんが、40代後半は一気に2,000万円台まで増加しています。
40代は第一線で患者さまを診療するだけではなく、部長・医長・副院長・教授など、より責任ある立場を任される時期です。医師としての経験やスキルに加えて、部下の教育やマネジメントに関する能力も求められますが、それに追随して給料も上がりやすくなります。
また、40代はスキルや実績を活かして好条件の職場に転職したり、自己資金を準備して開業したりするなど、キャリアチェンジにも適している時期です。
2-4 50代以上
医師の平均年収は50代前半で1,817万1,300円、50代後半で1,881万6,800円です。60代前半は1,824万9,200円、60代後半は1,846万4,200円、70代以降は1,588万8,000円となっています。
50代以上の医師は何らかの役職に就いているケースが大半なので、病院経営や部下のマネジメントに携わる機会も増えるでしょう。年収は50代前後でピークを迎え、その後は減少傾向になります。
また、昨今は人手不足に陥っている医療機関が多いため、スキルや専門医資格を活かせば、50代の医師でも転職することは可能です。あるいは30代・40代で決めたキャリアプランをもとに、50代で開業するケースも見受けられます。
【地域別】医者の平均年収
「令和4年賃金構造統計調査」の内容をもとに、地域別の医師の平均年収をランキング形式でまとめました。
順位 | 都道府県名 | 年収合計 |
1位 | 千葉 | 2,128万8,100円 |
2位 | 熊本 | 1,756万7,600円 |
3位 | 静岡 | 1,738万4,800円 |
4位 | 大阪 | 1,578万5,000円 |
5位 | 新潟 | 1,534万3,900円 |
6位 | 兵庫 | 1,528万8,200円 |
7位 | 埼玉 | 1,520万4,300円 |
8位 | 愛知 | 1,465万2,800円 |
9位 | 広島 | 1,353万9,300円 |
10位 | 京都 | 1,326万1,800円 |
11位 | 北海道 | 1,324万5,200円 |
12位 | 宮城 | 1,290万5,800円 |
13位 | 東京 | 1,248万1,700円 |
14位 | 神奈川 | 1,208万6,900円 |
15位 | 岡山 | 1,196万700円 |
16位 | 福岡 | 1,094万1,300円 |
出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」を基に表を作成
この結果が示すように、医師の年収は必ずしも都市部だから高い、地方だから低いとは限りません。
【経営母体別】勤務医の平均年収
ここからは、厚生労働省の「第23回医療経済実態調査」を基に、大学病院や公立病院、民間病院、診療所(クリニック)など医療機関の経営母体別の勤務医の平均年収や働き方の特徴について解説します。
4-1 大学病院や公立病院
「第23回医療経済実態調査」では、一般病院における勤務医の平均年収が公開されていますが、調査項目に「大学病院」がありません。そのため、参考までに「国立病院」「公立病院」「公的病院」の平均年収を紹介します。
- 国立病院:1,323万9,799円
- 公立病院:1,472万6,005円
- 公的病院:1,384万1,103円
他の経営母体に比べると、大学病院や国公立病院の年収はやや低い傾向にあります。これは医師教育・医療研究・政策医療・不採算医療など、いわゆる「利益にとらわれない医療」の継続を重視しているためです。
一方、大学病院は最先端医療などに携わることができる、国公立病院は公務員・準公務員として手厚い福利厚生が適用されるといったメリットもあります。
4-2 民間病院
「第23回医療経済実態調査」の調査項目には「民間病院」がないので、こちらも参考までに「医療法人」「個人病院」の平均年収を紹介します。
医療法人:1,506万2,173円
個人病院:1,704万5,012円
民間病院の場合、大学病院や国公立病院とは対照的に利益も重視する側面があります。医師や看護師の数を必要最低限まで抑えて、医師一人ひとりの担当患者数や業務範囲を増やしているケースが多いため、ハードワークの可能性が高い点には注意が必要です。
その代わり医師の給料も高く設定されているケースが多いので、勤務医でも高い年収を得やすいというメリットがあります。ハードワークに耐える自信があるなら、民間病院での勤務も検討しましょう。
4-3 診療所(クリニック)
「第23回医療経済実態調査」の内容をもとに、一般診療所における勤務医の平均年収をまとめました。
- 個人:997万9,550円
- 医療法人:1,078万9,621円
- その他:1,270万3,257円
- 全体:1,068万5,590円
一般診療所は無床化が進んでいるので、入院患者さまへの対応や当直がない診療所も増えています。一般病院に比べて残業が少なく、時短勤務などにも対応できるため、ワークライフバランスに優れている点もメリットです。
また、精神科・心療内科・産婦人科・美容外科など、自由診療のメニューを提供している診療所であれば、一般病院の勤務医より高い給料を得られる可能性もあります。ただし、豊富な臨床経験や専門医資格が求められる傾向にあります。
勤務医が年収をアップさせる3つの方法
勤務医が年収をアップさせる方法としては、以下の3つが挙げられます。
- 転職する
- 勤務先で院長などの役職を目指す
- 開業する
5-1 転職する
医療業界も勤務先によって給料が大きく変動するので、他の医療機関への転職は選択肢に入ります。
例えば、脳神経外科・産婦人科・外科・麻酔科など、手術対応が多い診療科は拘束時間が長い分、高い給料を支払っている傾向があるため、結果的に年収アップが見込めるでしょう。
また、都市部から離れた地域やへき地・離島にある医療機関は、慢性的な医師不足に陥っているケースも少なくありません。このような医療機関は医師を確保することが喫緊の課題であり、年収水準が高く設定されているため、年収アップを実現可能です。
そして、高い給料を求めるなら民間病院も見逃せません。医師や看護師が少ない分、業務の負担や責任は大きくなりますが、それに見合う対価を得られるでしょう。
5-2 勤務先で院長などの役職を目指す
今後も勤務医として働きたい場合、院長などの役職を目指すのも一案です。何らかの役職に就任することで、年収アップを実現できる可能性があります。
「第23回医療経済実態調査」から、おもな経営母体における院長と勤務医の平均年収を抜粋したので、以下も併せてご確認ください。
勤務医 | 院長 | |
国立病院 | 1,323万9,799円 | 1,876万2,235円 |
公立病院 | 1,472万6,005円 | 2,153万5,517円 |
公的病院 | 1,384万1,103円 | 2,241万2,669円 |
医療法人(一般病院) | 1,506万2,173円 | 3,110万957円 |
出典:厚生労働省「第23回医療経済実態調査」を基に表を作成。
このように勤務医と比べて院長は年収水準が高く、特に医療法人では2~3倍もの差が生じているので、かなりの高年収が期待できるでしょう。
5-3 開業する
「第23回医療経済実態調査」によると、開業医の平均年収は全体平均で2,729万9,869円です。勤務医の平均年収が一般病院で1,467万8,978円、一般診療所で1,068万5,590円という点を踏まえると、2倍程度の差が生じていることになります。
さらに、開業医として働く場合、以下のようなメリットも得られます。
- 理想とする診療スタイルを実現できる
- 自分の裁量で仕事ができる
- 診療時間や休診日を自由に設定できる
- 開業医・経営者ならではのやりがいがある
ただし、自分でクリニックを開業する場合、時間をかけて準備しなければなりません。また、経営者としての業務が増える、適切に経営しないと収入が安定しない恐れがあるといったデメリットもあります。
【診療科別】開業医の年収ランキング
順位 | 診療科 | 損益差額 |
1位 | 眼科 | 4,091万8,000円 |
2位 | 精神科 | 3,380万4,000円 |
3位 | 耳鼻咽喉科 | 3,318万8,000円 |
4位 | 整形外科 | 3,204万2,000円 |
5位 | 皮膚科 | 3,125万2,000円 |
6位 | 小児科 | 2,457万4,000円 |
7位 | 内科 | 2,455万円 |
8位 | 産婦人科 | 1,973万7,000円 |
9位 | 外科 | 1,178万4,000円 |
出典:厚生労働省「第23回医療経済実態調査」を基に表を作成。
勤務医で高い給料が見込める産婦人科や外科は、開業医だと順位が低くなっています。しかし、診療科によって年収が変動する点は同じなので、自分の専門分野や専門医資格を踏まえて検討しましょう。
年収2,000万以上を目指すなら開業がおすすめ
年齢・地域・経営母体など、勤務医の年収はさまざまな要素によって変動します。高年収を実現したいなら、まずは自分の年齢に合わせてキャリアプランを検討しつつ、医師としての経験やスキルを身に付けることが先決です。
経験やスキルを獲得したら、転職や出世を通じて勤務医のまま働き続けるか、あるいは開業医の道に進むか選択する必要があります。しかし、年収2,000万円以上など大幅な年収アップを目指す場合、勤務医より開業医として働くほうが近道といえます。
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