医院開業コラム
医師免許は一度取得したら生涯有効ですが、勤務先の医療機関によっては定年制度が設けられています。そのため、定年まであるいは定年後のキャリアプランでお悩みの先生も多いのではないでしょうか。
医師の場合、定年のない働き方も選べるため、自分のライフプランや目的に合わせて検討することが大切です。
この記事では、医師の定年に関する基礎知識を踏まえつつ、定年後に考えるべき問題とキャリアプラン、定年がない開業医の魅力について解説します。
医師の定年は何歳?
医師の定年は「あってないようなもの」といわれることもありますが、実際は働き方次第なので、一概に何歳とは断定できません。そこで、働き方ごとに異なる定年制度の概要をまとめたので、基礎知識として押さえておきましょう。
1-1 公務員の勤務医
国家公務員法(第八十一条の二)によると、国家公務員の定年は原則60歳です。ただし、特例として「病院、療養所、診療所等に勤務する医師、歯科医師等」は、定年が65歳と規定されています。
公務員の勤務医とは、以下の医療機関に勤める医師のことです。
- 国公立系の大学病院
- 公的病院
- 国立病院機構の病院
国公立系の大学病院および公的病院で働く医師は「公務員」という位置付けなので、国家公務員法の規定通り定年は65歳となります。一方、国立病院機構の病院で働く医師については、給与・待遇が公務員に準ずる「みなし公務員」に該当するため、同じく定年は65歳です。
なお、国家公務員の定年は段階的に引き上げられているため、公務員医師の定年も変わる可能性があります。
1-2 民間病院の勤務医
民間病院で働く医師の定年は、勤務先が定めている就業規則によって変わります。ほとんどの民間病院は65歳もしくは60歳に設定していますが、一方で65~70歳と長く設定していたり、定年制度自体を廃止していたりするケースもあるため、公務員医師に比べると自由です。また、病院長・副院長・医長など幹部ポジションとして働いている医師の場合、定年制度の対象外になっているケースもよく見受けられます。民間病院の場合、再雇用や退職金に関する規定もそれぞれ異なるため、50代の時点で定年後のキャリアプランを考えておくと安心です。「老後はのんびり暮らしたい」「できるだけ長く医療に携わりたい」など、自分の希望やビジョンに基づいて検討しましょう。
1-3 開業医やフリーランス医師
自分でクリニックを経営している開業医、または特定の医療機関に所属せず働くフリーランス医師の場合、そもそも定年というルールが存在しません。引退時期は自分で決められるため、体力・気力が続く限り医師として働き続けることができるのです。特に開業医は経営者という顔も持っているので、加齢により診療業務の遂行が難しくなっても、若い医師を雇われ院長として迎えれば、引き続きクリニックを経営できます。より長く働ける分、収入面でのメリットも大きいといえるでしょう。
1-4 定年の延長・再雇用制度
国公立系の大学病院および公的病院については、定年後も5年間働ける「継続雇用制度」を設けているケースがあります。公務員医師の定年は65歳ですが、この制度を適用すれば70歳まで働き続けることが可能です。また、国立病院機構の病院は「シニアフロンティア制度」を設けているケースがあります。こちらは医師の確保が難しい施設において、定年後も常勤医として働ける制度です。なお、年齢上限や細かい規定は勤務先によって異なります。
一方、民間病院は就業規則で規定されている条件次第ですが、定年の延長ができるケースもあります。
経験豊富なベテラン医師が定年退職することは、医療機関と患者さま双方にとって大きな損失となるため、このような特例が認められているのです。
60歳・65歳・70歳で活躍している医師はどれくらいいるのか?
定年後のキャリアプランを考えるにあたり、定年を迎えても活躍している医師の年齢層や人数が知りたいという先生は多いのではないでしょうか。
そこで、厚生労働省が公表している「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」をもとに、医療機関で働く医師の人数および年代別割合を表形式でまとめました。
医師の人数 | 年代別割合 | |
29歳以下 | 31,609人 | 9.8% |
30~39歳 | 66,210人 | 20.5% |
40~49歳 | 67,406人 | 20.8% |
50~59歳 | 67,525人 | 20.9% |
60~69歳 | 56,951人 | 17.6% |
70歳以上 | 33,999人 | 10.5% |
(出典:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」を基に表を作成)
上記の表からわかるように、60歳以上が全体の30%弱を占めているため、医師の高齢化が進んでいる状況です。しかし、医療業界は人手不足も深刻化しているので、60歳以上の医師でも一定のニーズが見込めます。実際、70歳を超えても元気に働く医師は数多く存在するため、働き方によっては定年後も働きやすい活躍しやすい職業といえるでしょう。
医師が定年後に悩む問題
定年を迎えても活躍している医師が多い一方、定年後は「年収」「退職金」「健康」において問題が発生する可能性もあります。
「なぜ問題が起こるのか?」という原因と注意点を押さえておけば、安定した生活を実現できるでしょう。
3-1 年収
厚生労働省が公表している「令和4年賃金構造統計調査」によると、医師の平均年収は1,428万8,900円です。平均年収の職業別ランキングでは、航空機操縦士に次ぐ2位にランクインしているので、医師=高収入というイメージは正しいと言えます。
しかし、定年退職後の収入源が年金だけになる場合、今まで通りの生活水準を維持することは困難でしょう。国民年金・厚生年金の両方に加入していても毎月の受給額は20~25万円程度であり、定年退職前より大幅に収入が減ってしまうからです。
また、定年後に勤務を継続できたとしても、今までより年収は減少する可能性が高いので、生活の見直しを迫られるかもしれません。定年後も働くかどうかを問わず、事前に家計をシミュレーションしましょう。
3-2 退職金
国公立系の大学病院や公的病院の場合、国や自治体によって退職金制度がきちんと規定されているので、基本的に退職金が支給されます。一方、民間病院でも退職金制度を設けているケースが多いため、求人広告や雇用契約書で確認すべきポイントです。
また、勤続年数や退職事由によって退職金の金額は変動するので、あらかじめ就業規則などをチェックしておきましょう。その医療機関に長く勤めていて、なおかつ滞りなく定年退職を迎えることができれば、退職金の金額も高くなる傾向にあります。
逆に勤続年数が1~2年程度と短かったり、自分の過失によって退職したりする場合、退職金自体が支給されない可能性もあるので、この辺りも確認しておきましょう。
3-3 健康
定年後に勤務を継続できるとしても、今までと同じように働けるとは限りません。60~70歳という年齢にさしかかると、加齢によって体力が低下するだけではなく、気力も衰えやすくなるので、勤務形態や業務内容はよく考えて選ぶ必要があります。
特に当直やオンコール対応などは心身への負担が大きいため、若い頃と同じイメージで業務を担当すると、健康を損なってしまうかもしれません。無理をすると他の医師やスタッフに迷惑がかかるだけではなく、取り返しのつかない医療ミスが発生する可能性もあります。
定年後も医師として働きたいなら、今まで以上に健康管理に配慮することはもちろん、自身の健康状態を見極めて働き方を検討することも大切です。
医師の定年後のキャリアプラン
医師の定年後のキャリアプランとしては、以下のような選択肢があります。
- 病院やクリニックでの再就職
- 介護老人保健施設
- 健康診断医
- 産業医
前提として定年後の働き方を踏まえつつ、各キャリアプランの概要をそれぞれ解説します。
4-1 働き方の選択|常勤?非常勤?嘱託医?
先述の通り、60~70歳にもなると体力・気力は衰えてしまうので、健康上の問題が生じます。そのため、定年後も働き続ける場合、常勤だけに固執せず他の働き方も検討すべきです。
例えば、定年後の医師から人気が高い働き方として「非常勤医」があります。基本的な業務内容は常勤医と同じですが、勤務時間や出勤日数を少なくできるため、無理なく自分のペースで働けることがメリットです。
また、心身への負担を減らしたいなら「嘱託医」も検討価値があります。こちらは一般企業や行政機関などと業務委託契約を結んで、特定の業務に従事する働き方です。非常勤医と同様、勤務時間や出勤日数の融通が利くので、高齢の医師でも無理なく働けます。
4-2 病院やクリニックでの再就職
慢性期・療養期・回復期の診療を中心とする病院、小規模の無床クリニックなどは比較的負担が少ないため、高齢になっても常勤で働きやすい職場です。業務内容はそれぞれ異なりますが、プライマリケア領域の診療や患者さまの健康管理・健康指導がメインなので、ハードワークになる可能性は低いといえます。
常勤医として再就職すれば、定年退職前より下がるとはいえ、安定した収入を確保できるようになります。さらに、当直やオンコール対応がないケースも多いため、ワークライフバランスを維持しながら働けることもメリットです。
ただし、医療機関によっては人工呼吸器管理や透析管理、呼吸器・循環器などに関する知識や技術が求められるケースもあります。
4-3 介護老人保健施設
介護老人保健施設では、入所者の健康管理・健康指導、看護師やリハビリ専門職への指示といった業務がメインとなります。こちらも一般的な病院に比べると負担が少なく、常勤医として働きやすいため、定年後のセカンドキャリアにおすすめです。管理医師(施設長)として勤務する場合、経営やマネジメントに携わる機会も出てくるので、今まで得られなかった経験やノウハウを習得できます。
また、入所者やそのご家族が安心できるよう、人生経験と臨床経験が豊かなベテラン医師を求める傾向があるため、60歳以上の医師でも採用されやすいでしょう。
一方、各分野のスタッフや入所者・ご家族と話し合う機会が多いので、今まで以上にコミュニケーション能力が重要視されます。
4-4 健康診断医
レントゲンやCTに関する読影スキルを持っている場合、非常勤の健康診断医(健診専従医)として健診センターで働く選択肢もあります。健診受診者の健診や読影、結果判定といった業務がメインですが、勤務時間が午前中や夕方までと明確に決まっているため、定年後の医師にも向いている仕事です。
また、健康診断医はスポットバイトの求人が多いので、働きたいタイミングだけ勤務することもできます。健康診断は一年を通して行われているため、自分のペースで働きやすい点もメリットです。
なお、健康診断医は病気や問題を見つけることが使命なので、過去の健診データや既往歴、健診受信者の自覚症状などに基づき、的確に診断できる能力が求められます。
4-5 産業医
産業医とは、企業の従業員が健康かつ快適な作業環境で働けるよう、専門的な見地に基づいて健康管理・健康指導を行う医師のことです。週1回・月1回程度の緩いペースで勤務することが多いので、短時間で心身に負担がかからない働き方を実現できます。
ただし、産業医として働くためには、医師免許に加えて以下のような要件を満たす必要があります。
- 厚生労動大臣が定める産業医研修の修了者
- 労働衛生コンサルタント試験(試験区分保健衛生)の合格者
- 大学において労働衛生を担当する教授・助教授・常勤講師の職にある、またはあった者
- 産業医の養成等を目的とする産業医科大学・その他の大学で、その大学が定める実習を履修した者
また、医師としてある程度の経験を要求されることも覚えておきましょう。
開業医なら定年を気にせず柔軟に仕事を続けられる
先述の通り、開業医には定年という概念そのものがないため、働き続けられることがメリットです。もちろん、自分の健康状態と随時相談するという前提条件付きですが、体力・気力があれば70代・80代以降も第一線で活躍できるので、医師としてさらなるキャリアを築けるようになります。
また、高齢のせいで思うように診療ができなくなった場合でも、開業医なら医師を雇って負担を軽減する、後継者にクリニックを任せるといった対処法があります。
そして、開業医は大幅な年収アップが見込めることも魅力です。クリニックの経営がうまく軌道に乗れば、勤務医の2倍近い年収を稼げるようになるので、老後のための資産形成もしやすいでしょう。
開業するなら専門のコンサルタントに相談しよう
医師の定年は働き方によって変わりますが、勤務医なら65歳もしくは60歳が一般的です。今まで培ったスキルを活かすことで、非常勤医や介護老人保健施設の医師として働けるため、定年後のキャリアプランを考えているならチェックしましょう。
一方、定年を気にすることなく働きたいなら「開業」という選択肢があります。ある程度年齢を重ねていても開業は可能ですが、資金調達時の融資審査の通りやすさ、体力・気力の問題などを考慮すれば、早めに行動したほうが得策です。もしクリニック開業を検討しているなら、まずは専門のコンサルタントに相談することを推奨します。
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