医院開業コラム
自分でクリニックを開業すれば、理想の医療や働き方を実現できるうえ、大幅な年収アップが期待できます。しかし、開業を検討するにあたり、クリニックの閉院リスクが気になっている先生も多いのではないでしょうか。
クリニックの閉院を避けるためには、閉院に至るケースを踏まえつつ、必要な対策を講じておくことが大切です。
この記事では、クリニックが閉院する理由や閉院の手続き、安定的な経営を続けるための方法などについて解説します。
クリニックが閉院に至る理由
クリニックが閉院する理由としては、主に以下のようなものが挙げられます。
- 院長の年齢の問題と後継者不足
- コロナ禍の影響で経営難に
- 勤務医に戻ることを選択
それぞれ概要をまとめたので、基礎知識として押さえておきましょう。
1-1 院長の年齢の問題と後継者不足
医療業界は現状、医師の高齢化・人手不足という2つの問題を抱えています。この問題を背景に、開業医が加齢に伴う体力低下で働けなくなった際、クリニックの後継者が見つからず、やむなく閉院するケースが多く見られます。
以前は子供を後継者にするのが一般的でしたが、近年は診療科の違いや意識の変化により、親族間での承継が思うようにいかないクリニックもあるようです。そのため、近年は第三者承継やM&Aという選択肢も注目されています。
また、厚生労働省が公表した「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、医師全体の平均年齢は50.5歳となっています。開業医は勤務医と違って定年がないので、一般的な定年年齢である65歳を超えても働けますが、勤務医も含めて医師の高齢化が進んでいるといえます。
出典:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計」
1-2 コロナ禍の影響で経営難に
開業医は勤務医の2倍以上の年収を得ることも期待できますが、これは経営が順調にいった場合の話です。クリニックの経営がうまく軌道に乗らなかった場合、高齢化や人手不足といった問題に関係なく、閉院に追い込まれてしまうケースもあります。
最近ではコロナ禍の影響によって来院患者数が大きく減少し、経営難に陥ってしまったクリニックも散見されます。
また、近年はインターネットが普及していることもあり、患者さまはクリニックを選ぶ際にホームページやSNSで情報をチェックします。しかし、時代の変化に合わせた効果的な集患対策ができず、経営難に陥るケースも多いのです。
1-3 勤務医に戻ることを選択する医師も
長期間の準備を経てクリニックを開業したものの、以下のような理由からクリニックを閉院し、他の医療機関への転職を選択するケースもあります。
- 思ったよりも経営がうまくいかなかった
- 開業医としての働き方が合わなかった
- 介護や育児によってライフスタイルが変化した
- 収入よりプライベートの時間を優先したかった
- 忙しすぎて健康を損なってしまった
開業医は仕事の裁量が大きい、年収アップが見込めるといったメリットがある一方、経営者としての業務もこなさなければならないため、多忙になりがちです。それゆえ、収入が下がるとしても、勤務医として無理なく働くことを望む医師もいるでしょう。
また、経営難で取り返しがつかなくなる前に、開業医から勤務医へと戻るケースも見受けられます。
クリニックの廃業率はどれくらい?
帝国データバンクが発表している「医療機関の倒産動向調査(2021年)」によると、2021年時点での一般診療所の倒産件数は22件です。コロナ禍の影響もあって前年(12件)より増加しましたが、2000~2021年の年平均が15件程度であり、一般診療所総数が10万件以上であることを踏まえれば、比較的少ないといえるでしょう。
一方、帝国データバンクの別データ「医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年)」によると、2021年時点での一般診療所の休廃業・解散件数(財務状況は健全なまま閉院)は471件です。こちらは年々増加していますが、主な原因として院長の高齢化や後継者不足が考えられています。2021年の場合、倒産件数と同じくコロナ禍の影響でも増加している状況です。
医療機関は一般企業に比べると公益性が強く、来院患者数も景気の影響によって減りにくいので、倒産ではなく休廃業・解散を選択できるケースが多いと見られています。
出典:帝国データバンク「医療機関の倒産動向調査(2021年)」
クリニックを閉院するための手続き
クリニックを閉院する場合、所定の手続きを踏む必要があります。個人診療所・医療法人の種別によって、手続きの流れも変わってくるため、あらかじめ把握しておきたいところです。
手続きの概要をそれぞれ解説するので、ぜひチェックしてみてください。
3-1 個人診療所の場合
個人診療所を閉院する場合、管轄の保健所に「診療所廃止届」などを提出するほか、厚生局や税務署といった関係各所にも申請・届出を行います。必要書類を提出先・提出期限とともにまとめました。
提出先 | 書類の名称 | 提出期限 |
厚生局 | 保険医療機関廃止届 | 遅滞なく |
福祉事務所 | 生活保護法指定医療機関廃止届 | 遅滞なく |
医師会 | 退会届 | 遅滞なく |
税務署 | 個人事業廃止届 | 遅滞なく |
都道府県税事務所 | 個人事業廃止届 | 遅滞なく |
医師国民健康保険組合 | 資格喪失届 | 遅滞なく |
年金事務所 | 適用事業所全喪届 | 5日以内 |
年金事務所 | 被保険者資格喪失届 | 5日以内 |
保健所 | 診療所廃止届 または開設者死亡(失そう)届 | 10日以内 |
保健所 | エックス線廃止届 ※廃棄証明書の添付が必要 |
10日以内 |
都道府県 | 麻薬施用者業務廃止届 | 15日以内 |
労働基準監督署 | 確定保険料申告書 | 50日以内 |
なお、都道府県や自治体によって手続きが異なるケースもあるため、事前にホームページなどで確認しておくと安心です。
また、医療機器・備品の処分、スタッフや患者さまへの対応も必要ですが、詳細は後述します。
3-2 医療法人の場合
医療法人を閉院する場合、診療所自体の手続きに加えて、法人の解散手続きが必要です。
医療法人の解散事由については、医療法第55条で以下のように規定されています。
- 定款をもつて定めた解散事由の発生
- 目的たる業務の成功の不能
- 社員総会の決議
- 他の医療法人との合併
- 社員の欠亡
- 破産手続開始の決定
- 設立認可の取消し
これらの事由によって解散する場合、「解散認可申請」もしくは「解散届」を提出しなければなりません。また、事由によって提出すべき書類が変わること、それぞれ添付書類のルールが定められていることにも注意が必要です。
上記の書類を提出したら、以下のように解散手続きを進めます。
- 解散の登記・清算人就任の登記を行う
- 清算手続きを行う
- 廃業について官報で公告する
- 清算終了後の清算決了の登記を行う
その他、医療機器・備品の処分、スタッフや患者さまへの対応に加えて、持分ありの場合は出資持分の払い戻しも行う必要があります。個人診療所に比べると手続きが複雑なので、医療法に詳しい税理士などに依頼するのも一案です。
クリニックを閉院するときの注意点
クリニックの閉院にあたって、注意すべきポイントは以下の通りです。
- 多大な手間と費用がかかる
- 従業員への周知と退職金の支払い
- カルテ・レントゲンの保管義務
- 地域医療や患者さまへの影響
以下でそれぞれ詳しく解説します。
4-1 多大な手間と費用がかかる
経営規模や診療科によっても変動しますが、クリニックの閉院には以下のように多大な手間と費用がかかってきます。
- 建物の原状回復・取り壊し
建物を借りているなら元の状態に戻し、土地を借りているなら建物自体を取り壊す必要があります。 - 残債の清算
未返済の借入金など残債がある場合、きちんと清算する必要があります。 - 医療機器の処分
医療機器によっては、買い取りや無償引き取りが可能です。 - 備品・医療廃棄物の処分
薬剤など取り扱いに注意しなければならないものは、専門業者に処分を委託します。
- 各種行政手続き
税理士などに手続きを依頼する場合、報酬を支払う必要があります。
合計すると1,000万円以上かかるケースもあるため、必要な資金を用意するだけでも大変です。
4-2 従業員への周知と退職金の支払い
クリニックの閉院が決まったら、その旨を看護師や医療事務といったスタッフへ早めに告知する必要があります。スタッフは新しい勤務先を探さなければなりませんが、働きながら転職活動を進めたいというニーズも考慮すると、遅くとも閉院の3ヶ月前には伝えるべきです。
スタッフのスキル・経験や年齢によっては、短期間で新しい勤務先が見つかるとは限らないので、可能なら半年前くらいに告知しましょう。
また、就業規則に規定がある場合、スタッフの退職金を支払う準備もしなければなりません。「基本給の半額×勤続年数」が相場ですが、合計するとかなり高額になる可能性がありますので、あらかじめ引当金を積み立てておくことも必要です。
4-3 カルテ・レントゲンの保管義務
患者さまのカルテやレントゲンは、クリニックを閉院するとしても一定期間きちんと保管しなければなりません。これらのデータは損害賠償や障害年金の請求など、閉院後も使用する可能性があるためです。
カルテについては、医師法第24条第2項にて5年間の保管が義務付けられています。また、紙カルテと電子カルテで保管方法が異なるので、事前に確認しておきましょう。一方、レントゲンは保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条により、3年間の保管が義務付けられています。
なお、医療機関によっては損害賠償請求などのトラブルに備えて、上記期間より長く保管するケースがあることも覚えておきましょう。
4-4 地域医療や患者さまへの影響
クリニックを閉院する場合、それまで通院してくれていた患者さまが困らないよう、早めの対応を心がけることが大切です。
患者さまは閉院に伴い、新たな医療機関を探さなければなりませんが、症状や治療内容によっては近隣の他院への紹介・引き継ぎを行う必要があります。いずれにせよ時間がかかる可能性もあるため、閉院の3ヶ月前には患者さまに告知し、引き継ぎなどの準備を進めたいところです。
また、閉院が決まったら、取引先の業者にも早めに伝えましょう。契約解除の手続きや未収金の回収など、やるべき作業が残っているかもしれないので要チェックです。
クリニック閉院の前に検討したい承継・譲渡
クリニックの閉院は、自分のタイミングで引退でき、後継者問題で家族に迷惑をかけないための選択肢として検討できますが、かなりの手間と費用がかかるうえ、スタッフや患者さまにも大きな影響を及ぼします。
後継者となる親族などがいない場合、親族以外の医師にクリニックを譲渡する「第三者承継(M&A)」も検討したいところです。経営者は新院長へと変わりますが、クリニック自体はその地域に存続するので、スタッフや患者さまも引き継いでもらえる可能性があります。
さらに、第三者承継はクリニックの経営権・資産を売却することになるため、前院長は売却による譲渡益を得られることもメリットです。譲渡益は生活資金や老後資金として使えるほか、承継前の残債の清算に充てることもできます。
また、テナントを借りて開業している場合、クリニックを譲渡することにより、内装の原状回復をしないで済むケースもあるので、その分だけ費用を節約できるようになります。
やむなく閉院に追い込まれないための対策
閉院に追い込まれないためには、以下のような対策を講じておくことが大切です。
- 安定した経営を行うために開業前から綿密に準備する
- 引退した後のことも考えて計画を立てる
開業の成功にもつながる内容なので、きちんと押さえておきましょう。
6-1 安定した経営を行うために開業前から綿密に準備する
意図しない閉院を避けたい場合、クリニックの経営を安定させることが必須条件です。それを実現させるうえで重要な要素の多くは、開業前の準備で決まるといっても過言ではありません。
開業前の準備は、基本的に以下のような流れで進みます。
- 診療コンセプトの決定
- 適切な事業計画・資金計画の立案
- 資金調達・融資申し込み
- 集患に適した開業場所の選定
- クリニックの内装・外装の設計
- 医療機器の選定
- スタッフの採用・研修
- 集患対策
- 各種行政手続き
どれも開業に欠かせない作業ですが、特に重要なポイントが「開業場所」です。土地の広さや交通の利便性はもちろん、ターゲットとなる患者層にアプローチできるかどうかで、経営状況は大きく左右されるため、開業場所は慎重に選びましょう。
6-2 引退した後のことも考えて計画を立てる
開業を通じて地域医療に長く貢献したいなら、自分が引退した後のことも考えたうえで、事業計画を立てることが大切です。開業医に定年はありませんが、60~70代に突入すると体力はどうしても落ちてしまうので、仕事の継続が難しくなる可能性もあります。
もし身近な後継者がいない場合、先述した第三者承継(M&A)を前向きに検討しましょう。自分が築き上げたクリニックを譲渡して残せるので、地域医療への影響も最小限に抑えられます。
なお、好条件で譲渡するためには、クリニックの経営を安定させておくことが大切です。あらかじめ医療法人成りしておけば、承継手続きをスムーズに進められるようになります。
また、家族へ資産を譲るときのことを考慮し、相続税対策も段階的に行っておきましょう。
クリニック開業を成功させるならコンサルタントに相談を
高齢化による体力低下や後継者不足などを理由に、クリニックの閉院へと至るケースがあります。閉院は手間や費用がかかる、スタッフや患者さまへの影響が大きいなど、デメリットが多い選択肢なので、あまり推奨できません。
開業を成功させるためには、専門的なノウハウを持つコンサルタントに相談し、知識や情報を集めることが大切です。
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