医院開業コラム
勤務医として十分な経験を積んでいる場合、今後のキャリアプランに「自分でクリニックを開業する」という選択肢が入ってきます。しかし、開業医を目指すにあたって「何をすべきか迷う」「タイミングを計りかねている」など、悩みを抱えている先生も多いのではないでしょうか。
この記事では、開業医になるために必要なスキルや準備を踏まえつつ、開業に適した年齢・タイミング、開業のメリットや手順・手続きなどについて解説します。
- 開業医になるために必要なスキルや資格
- 開業医になる年齢・タイミング
- 開業医になるために今からやるべきこと
- なぜ開業するのか?開業医になるメリット
- クリニック開業の手順と必要な手続き
- 医師の開業を成功させるためのポイント
開業医になるために必要なスキルや資格
開業医になると、勤務医時代よりやるべき業務が一気に増えるので、それに見合った能力を身に付けなければ、何かと苦労することになります。そこで、開業医になるために必要なスキルや資格についてご説明します。
1-1 臨床経験や専門医としてのスキル
開業医として働く場合、基本的にクリニック内の医師は院長一人です。そのため、診療体制が勤務医とは変わり、患者さまに対して負う責任も大きくなります。患者さまの信頼を獲得して、なおかつ集患を成功させるためには、質の高い医療サービスを提供することが不可欠です。臨床経験を積み重ねることはもちろん、他院との差別化を見据えて、専門医としてのスキルを身に付けることも検討すべきでしょう。
1-2 経営者としての意識と知識
開業医は勤務医と違って「個人事業主」なので、日々の診療だけではなく、クリニック経営に関する業務全般を担う必要があります。売上を確保するためのマーケティング施策や集患施策、スタッフのマネジメントや行政機関への届出など、院長がやるべき業務は多種多様です。
これらの業務を滞りなくこなすためには、クリニックの経営者・管理者である自覚を持ったうえで、マーケティング・経理・人事・労務などに経営に関する知識を身に付ける必要があります。
1-3 開業医になるために資格は必要?
クリニックを開業する場合、当然ながら医師免許は欠かせませんが、それ以外で新たに資格を取得する必要はありません。医師免許を持っているなら、年齢や経験を問わず開業医になることができます。
一方、クリニック経営を成功させるために役立つ以下のような資格もあります。
- 医療経営士
- 医業経営コンサルタント
- 病院経営管理士
また、各種専門医の資格があると自院の専門性をアピールでき、集患効果も期待できます。
開業医になる年齢・タイミング
医師がクリニックを新規開業する際の平均年齢は40歳前後ですが、近年は医療業界を取り巻く情勢や医師一人ひとりの価値観が変化していることもあり、開業医の年齢層は幅広くなっています。実際、30代前半から独立を目指すケースがあれば、50代後半になってから開業するケースもあるため、タイミングが早すぎる・遅すぎるということはありません。
ただ、医師としての十分な臨床経験、自己資金を準備するための期間、融資審査の通りやすさや返済計画などを考慮すると、やはり40歳頃が開業の適齢期といえるでしょう。
自分にとってのベストタイミングを探りたいなら、医師としてのキャリアプランはもちろん、結婚・子供の入学・両親の介護といったプライベートの計画も踏まえて、開業を検討することが大切です。
開業医になるために今からやるべきこと
開業医になるためには、入念な準備が欠かせません。準備期間は人それぞれ異なりますが、少なくとも1年以上はかかると考えておいた方がよいでしょう。開業医を目指すにあたって、今からやるべきことを解説します。
3-1 まずはコンセプトを明確にする
クリニックを開業するなら、まずは自院のコンセプトを固めなければなりません。理想の診療スタイルや働き方、患者さんとの向き合い方などを明確にしておくことで、その後の意思決定がしやすくなります。
また、コンセプトが決まったら、それを実現させるための事業計画を策定することも大切です。医療機器の選定やスタッフの採用・教育、ホームページ制作といった具体的な取り組みをまとめて言語化しておけば、開業準備もスムーズに進められるでしょう。
3-2 開業形態の検討
クリニックの開業と一口にいっても、さまざまな形態があります。まず、ゼロからクリニックを設立する「新規開業」と、親類や知人のクリニックを受け継ぐ「承継開業」に大きく分けられます。
また、クリニックを構える物件のタイプも、戸建て・ビルテナント・医療モールなどが検討できます。それぞれメリット・デメリットが異なるので、自身の考えるコンセプトと照らし合わせながら、最適なスタイルを選択しましょう。
3-3 開業エリアの選定
クリニックの立地選定は、開業の成否を決めるといっても過言ではありません。豊富な臨床経験や優れたスキル、最新鋭の医療機器などが備わっていたとしても、開業エリアが悪いと思うように集患できず、経営が成り立たないからです。
開業エリアを選定する際は、自院のコンセプトや標榜する診療科目をもとに、周辺の患者層や競合状況なども勘案する必要があります。好立地の物件を自分一人で探すのはなかなか難しいため、良い情報を多く持っている開業コンサルタントに相談するのがおすすめです。
3-4 自己資金の準備
物件取得費・内装工事費・医療機器購入費・広告宣伝費など、クリニックの開業には多様な費用がかかってきます。診療科目や開業エリアによっても変動しますが、5,000万~多いと1億円以上かかるケースもあるため、金融機関から融資を受けるのが一般的です。
ただし、融資審査の通りやすさや開業後の運転資金などを踏まえると、自己資金もある程度は準備しておいたほうがよいでしょう。特に、高齢の医師が開業する場合は、多めの自己資金が求められる傾向にあります。
3-5 若いうちから経営やマーケティングの知識を身に付ける
先述の通り開業医になると、クリニック経営に関する業務全般をこなさなければなりません。しかし、病院で勤務医として働いているだけだと、経営に携わる機会はほとんどないため、開業医に求められる経営やマーケティングの知識・スキルを身に付けることは困難です。
将来的に開業を検討しているなら、先立って勉強や情報収集を始める必要があります。体力・気力も十分な20~30代から、仕事と並行して進めることをおすすめします。
なぜ開業するのか?開業医になるメリット
クリニックを開業するまでのハードルは低くありませんが、開業医として成功すれば、以下のようなメリットを得ることができます。
- 年収アップ
- 理想の医療の追求
- 柔軟な働き方の実現
それぞれ詳しく解説するので、ぜひチェックしてみてください。
4-1 年収アップ
厚生労働省が発表した「第23回医療経済実態調査」によると、2019年の開業医の平均年収は2,700~2,800万円ほどです。
一方、同調査における病院勤務医の平均年収を見てみると、2019年は1,483万円。開業医の平均年収は勤務医と比べて約2倍と大幅な年収アップが見込めます。
4-2 理想の医療の追求
開業医として働く場合、自院のコンセプト・診療科目・経営方針などを自分で決められるので、理想とする医療を追求できるようになります。地域医療に特化した診療体制の確立、スポーツ医療や美容医療への注力など、さまざまな診療スタイルを実現可能です。
勤務医の場合、経営方針は勤務先の病院が決めるので、その内容に従って働く必要があります。経営者に自分の理想を伝えることは可能ですが、それを実現させることはなかなか難しいでしょう。
4-3 柔軟な働き方の実現
開業医は自身がトップなので、自分の裁量でクリニックの診療時間や休診日を決められます。ワークライフバランスを重視して休診日を多めに設定したり、夜間診療に対応したりするなど、柔軟な働き方を実現できるのも大きなメリットです。
勤務医の場合、当直勤務やオンコール対応が発生するので、開業医と比べるとどうしてもプライベートの時間を確保しづらい傾向にあります。また、医局人事に振り回されて、精神的なストレスを抱えるケースも少なくありません。
クリニック開業の手順と必要な手続き
クリニックの開業にはさまざまな準備や手続きが必要で、一般的に1年以上の期間を要します。
そこで、クリニック開業の手順および必要な手続きについてもまとめました。
5-1 開業コンサルタントへの相談
クリニック開業の手順や手続きは多岐にわたるので、専門知識や経験がないと手間がかかります。勤務医として働きながら準備を進める場合、日頃の忙しさも相まって大変な思いをするかもしれません。
失敗を避けるためには、実績豊富な開業コンサルタントに相談すべきです。ホームページや口コミなどをチェックして、自分に合った開業コンサルタントを探しましょう。すでに開業している医師仲間から、信頼できるコンサルタントを紹介してもらうのもおすすめの方法です。
5-2 物件探し
先述の通りクリニック開業を成功させるためには、開業エリアの選定が非常に重要です。集患が見込めるエリアを見つけたうえで、コンセプトや診療科目に合った物件を選ぶ必要があります。
また、クリニックの開業では、面積や天井高、給排水設備、電気容量なども考慮して物件を選定しなければなりません。クリニック開業に詳しいコンサルタントに相談して、適した立地やスペックについてのアドバイス、希望に沿った優良物件の紹介をしてもらうとよいでしょう。
5-3 開業資金の調達・融資
開業資金は数千万~、多いと1億円以上かかることもあります。自己資金ですべてまかなうのは難しいので、金融機関から融資を受ける必要があります。融資審査を通すためには、事前にきちんと事業計画書などの資料を作成しておくことが大切です。
作成すべき資料や書くべき内容がわからない場合、開業コンサルタントなどに相談すると解決できる可能性があります。
5-4 医療機器の準備
クリニックを開業する場合、電子カルテ・心電図・内視鏡・レントゲンなど、診療科目に合わせて医療機器を導入する必要があります。しかし、医療機器は高額な製品が多いので、過剰投資にならないよう必要分を把握しておくことが大切です。
資金に余裕がない場合、開業後の収支や運転資金の確保を考慮して割賦購入やリース契約なども検討しましょう。
5-5 内装工事の手配
内装は患者さまに与える印象やクリニックの評判、スタッフの業務効率に関わる重要ポイントです。そのため、法令を遵守しつつ、ターゲットとなる患者層に合わせたデザインやレイアウト、スムーズに診療できる動線を考えた設計にする必要があります。
実績豊富な工事業者を選定したうえで、自分の要望をしっかり伝えましょう。
5-6 スタッフ採用・研修
近年、医療業界は人材不足が続いているので、スタッフの採用も難しくなっています。看護師や受付スタッフはクリニック経営に欠かせないため、早めに採用活動を進めて優秀な人材を確保したいところです。
また、スタッフの離職を防ぐため、待遇の見直しや働きやすい環境づくり、スキルアップを支援する研修なども実施しましょう。
5-7 集患のための広告宣伝
クリニック経営を早期に安定させるためには、開業前の段階から集患施策に取り組む必要があります。今はインターネットによる情報収集が主流なので、ホームページやSNSアカウントの開設・リスティング広告の出稿など、開院予定日に間に合うよう準備しましょう。
また、開業エリアや患者層によっては、看板やチラシといった従来型のオフライン広告も引き続き有効です。
5-8 医師会への加入や各種行政手続き
医師会に加入することで、自治体助成事業(健診・予防接種など)の委託を受けたり、所属している医師と親睦を深めて有益な情報を交換したりすることができます。地域によってルールが異なるので、事前に把握しておきましょう。
また、クリニックを開業する際は各種行政手続きも必須です。保健所・厚生局・税務署など申請先が多いので、こちらもよく確認しましょう。
医師の開業を成功させるためのポイント
クリニックの開業はゴールではなく、あくまでスタートです。経営がなかなか軌道に乗らず、資金繰りや人材不足に苦労している場合、それは成功しているとは言えません。
そこで、医師の開業を成功させるためのポイントも紹介します。
6-1 診療科目の検討
時代や社会情勢の変化にともない、診療ニーズも変わってきています。クリニックの売上を確保するためには、診療ニーズを踏まえつつ、自分の専門性・地域の患者層・競合状況なども加味したうえで、標榜する診療科目や提供する医療サービスを決めることが大切です。
例えば、日本は2007年から超高齢社会(65歳以上の人口が21%超)に突入しているので、高齢者向けの訪問診療サービスや介護サービスを提供すれば、多くの利用者が見込めます。
また、最近はメンタルヘルスに関する問題も目立っているため、心療内科や精神科のニーズが高まっています。診療経験がないものを安易に標榜すべきではありませんが、自分の専門性に関連している診療科目があれば検討価値は高いでしょう。
6-2 早めの準備や情報収集が成功のカギ
クリニック開業には少なくとも1年以上の準備期間を要するため、必要な知識や情報を早めに収集したうえで、綿密な計画を練るべきです。勤務医の業務と並行しなければならないので、短期間で準備しようとするとミスが起こる可能性もあります。忙しさのあまり判断を誤った結果、余計な出費が発生するケースもあるため、余裕を持って準備したいところです。
開業を検討しているなら、準備や情報収集と併せて開業コンサルタントにも相談してみましょう。豊富なノウハウに基づいて、的確なアドバイスを受けることができます。
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