医院開業コラム
クリニックを開業するにあたって、銀行などから「融資」を受けることを検討している先生も多いのではないでしょうか。融資を利用すれば、多額の開業資金をカバーできるため、クリニック開業もよりスムーズに進められるようになります。ただし、審査・返済期間・金利など、注意すべきポイントも少なくありません。この記事では、クリニック開業で融資が必要になる理由や審査のポイント、融資の一般的な流れ、代表的な融資の種類などについて解説します。
クリニック開業で融資が必要になる理由
クリニック開業では、5,000万~1億円程度の開業資金がかかります。ただし、診療科目や開業形態によっては、それ以上の金額になるかもしれません。例えば、脳神経外科を開業する場合、診療に必要なCTやMRIといった画像診断装置を設置すると、2億円を超える可能性もあります。このように開業資金を自己資金だけで賄うことは難しいため、クリニック開業時は融資を受けて不足分を補うケースが一般的です。
1-1 クリニック開業で必要な資金
クリニックの開業資金は、大きく分けて「設備資金」と「運転資金」の2種類から構成されています。設備資金とは、物件取得費・内装工事費・医療機器購入費などに使うお金のことです。それに対して運転資金は、家賃・人件費・医薬品費など、事業運営のために幅広く使える資金を指します。審査支払機関からの診療報酬の入金は数ヶ月先になるケースが多く、人件費や医薬品費を支払うと手元資金が不足しやすいため、あらかじめ運転資金を準備する必要があるのです。
また、2年に1回(薬価は1年に1回)実施される診療報酬改定にも注意しなければなりません。「自院にどのような影響があるのか」「施設基準は何があるのか」など、事前に確認する必要があります。
例えば、2022年度診療報酬改定では、クリニックが取り組むべきICT対応として「設備対応の義務化」が盛り込まれているので要チェックです。
1-2 融資を受けるタイミング
融資を受ける場合、あらかじめ詳細な事業計画書を作成しておく必要があります。その事業計画書を借入先に提出して、クリニック開業前のタイミングで必要な資金を得るのが一般的です。
なお、クリニック開業後に「資金が足りなくなった」「経営が立ち行かなくなった」といった事情によって融資を受けようと思っても、同じように融資を受けることは容易ではありません。経営が悪化した状態では、返済能力が低いと判断されて審査に通らない可能性があるためです。
1-3 クリニック開業で融資を受ける際の注意点
融資を申し込むと、事業計画書や面談内容に基づいて審査が行われます。この審査に通らなければ、融資を受けることはできません。審査に通ったとしても希望通りの条件で資金を借りられるとは限らないので、開業資金を多めに見積もって希望金額を提示したほうがいいケースもあります。
また、融資を受ける際は、開業までのスケジュールにも注意しなければなりません。一般的に融資を申し込めるタイミングは「クリニックを開業する物件の契約締結後」ですが、物件を探すだけで時間がかかる可能性もあります。また、物件を取得したら内装工事に資金が必要になるため、余裕のあるスケジュールを組むことが大切です。
そして、開業資金として融資してもらったお金は、他の目的で使うことはできません。申告した目的以外に使用した場合、即返済を求められるといったペナルティが科されることもあります。
資金額や条件を比較する際のチェックポイント
クリニック開業で融資を受けるなら、以下のポイントを踏まえて借入先を比較することが大切です。
- 借入上限額
- 返済期間
- 金利
- 返済額のシミュレーション
それぞれ詳しく解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
2-1 借入上限額と返済期間
融資は無制限にお金を借りられるわけではなく、借入上限額が決まっています。借入先によって借入上限額は異なりますが、一般的な銀行なら5,000万~1億円程度です。担保の有無によって変動することもあります。
借入金の返済期間についても、運転資金は5~10年、設備資金は20年以上など、使途によって分けられているケースもあるため、事前にチェックしておきましょう。
また、借入金の返済方法は、大きく元利均等返済と元金均等返済の2種類があります。それぞれメリット・デメリットがあるため、自身に合った方法を選びましょう。
- 元利均等返済:毎月の返済額(元金+利息)が一定で、返済計画が立てやすい。
- 元金均等返済:当初の返済額は元利均等返済より高くなるが、徐々に返済額は減っていき、総返済額も元利均等返済より少なくなる。
2-2 金利
融資には所定の金利が設定されているのが一般的で、返済時には利息をつけて支払わなければなりません。利率は借入先によって異なりますが、一般的に返済期間が長い設備資金より返済期間が短い運転資金のほうが利率は高くなります。また、有担保より無担保のほうが利率は高くなる傾向にあります。
そして、融資を受けるなら「変動金利」と「固定金利」の違いを把握しておくことも大切です。「変動金利」は市場金利に連動して利率が変わるシステムであり、契約時の利率は低めに設定されていますが、将来的に利率が高くなるリスクがあります。一方、「固定金利」は利率は高めですが、定められた期間中に利率が変わることはありません。
融資を比較・検討する際は、変動金利・固定金利の違いも踏まえて、長期的な目線で判断したいところです。
2-3 返済額のシミュレーション
融資を受けるにあたって、返済額の目安が知りたいという先生も多いのではないでしょうか。そこで、以下のような条件に基づき、返済額(元利均等・元金均等)のシミュレーションを行いました。
- 借入総額:5,000万円
- 返済期間:10年
- 利率:5%
【年間返済額】
年 | 元利均等返済 | 元金均等返済 |
1 | ¥5,656,194 | ¥6,192,708 |
2 | ¥5,656,194 | ¥6,067,708 |
3 | ¥5,656,194 | ¥5,942,708 |
4 | ¥5,656,194 | ¥5,817,708 |
5 | ¥5,656,194 | ¥5,692,708 |
6 | ¥5,656,194 | ¥5,567,708 |
7 | ¥5,656,194 | ¥5,442,708 |
8 | ¥5,656,194 | ¥5,317,708 |
9 | ¥5,656,194 | ¥5,192,708 |
10 | ¥5,656,194 | ¥5,067,708 |
総返済額 | ¥56,561,941 | ¥56,302,083 |
利息総額 | ¥6,561,941 | ¥6,302,083 |
【月間返済額(1年目)】
月 | 元利均等返済 | 元金均等返済 |
1 | ¥471,350 | ¥520,833 |
2 | ¥471,350 | ¥519,965 |
3 | ¥471,350 | ¥519,097 |
4 | ¥471,350 | ¥518,229 |
5 | ¥471,350 | ¥517,361 |
6 | ¥471,350 | ¥516,493 |
7 | ¥471,350 | ¥515,625 |
8 | ¥471,350 | ¥514,757 |
9 | ¥471,350 | ¥513,889 |
10 | ¥471,350 | ¥513,021 |
11 | ¥471,350 | ¥512,153 |
12 | ¥471,350 | ¥511,285 |
クリニック開業時の融資の審査ポイント
クリニック開業で融資を受ける場合、本当にお金を貸しても問題ないのか(きちんと返済が見込めるか)を見極めるため、厳格な審査が行われます。融資を検討しているなら、審査のポイントはきちんと押さえておきましょう。
3-1 開業の動機や診療理念
融資の審査をクリアするためには、しっかりとした事業計画を立てることが何より大切です。確かな根拠に基づいて具体的な経営計画を提示することはもちろん、その前提となる開業の動機や診療理念といった経営ビジョンもきちんと伝える必要があります。
「収入を上げたい」という理由から開業する先生も多いと思いますが、収益を上げるためには、対象となる顧客に、いかに価値を提供できるかが重要です。クリニックに置き換えれば、「地域の患者さまに質の高い医療を提供して、健康維持に貢献できるか」が経営を成功させるために不可欠だといえるでしょう。
- 自分が生まれ育った地域の医療活性化に貢献したい
- 今まで培った知識・技術でより多くの患者さまを救いたい
このように開業医だからこそ実現できる医療のビジョンに基づいた堅実な事業計画を提出できると、融資担当者にも良い印象を与えられるでしょう。
3-2 自己資金や借入状況など
医師は他の業種に比べると、年収や社会的なニーズが高いこともあり、信用力のある職業といえます。しかし、クリニックを開業する場合、ある程度の自己資金を求められることが一般的です。医師の年齢が高くなるほど、多くの自己資金を求められる傾向にあります。自己資金なしで申し込める融資もありますが、実際には希望の条件では審査に落ちてしまう可能性が高くなります。また、他に借入がある場合、内容によっては審査に悪影響が生じるので注意しましょう。
クリニック開業での融資の一般的な流れ
クリニック開業で融資を受ける際の一般的な流れは、以下の通りです。
- 融資条件の確認
まずは融資の希望金額を検討したうえで、借入上限額・金利・返済期間といった条件をそれぞれ確認し、利用したい融資を決めましょう。 - 必要書類の提出
融資を申し込んだら、借入先の指示に沿って事業計画書などの必要書類を提出しましょう。 - 融資担当者との面談
融資担当者との顔合わせが済んだら、必要書類の内容や開業後のビジョン、医師の人柄などをチェックするための面談が行われます。 - 審査
審査期間は借入先によって異なりますが、だいたい2週間程度です。 - 融資の決定
審査に通った場合、融資担当者から提案内容の連絡が来るとともに、正式な借入契約書が送付されます。借入契約書に記入・押印して返送したら、指定口座に開業資金が振り込まれます。
開業の計画がある程度決まったら、早めに銀行などに相談しましょう。
クリニック開業時に利用できる融資
ここからは、開業医が利用できる代表的な6つの融資の概要や強みをまとめました。
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会の制度融資
- 医師会の開業支援ローン
- 民間金融機関のプロパー融資
- 独立行政法人福祉医療機構(WAM)
- リース会社
5-1 日本政策金融公庫
「日本政策金融公庫」は開業医など創業者のサポートを行う、政府系の金融機関です。創業者向け融資における代表格なので、クリニック開業でも第一に検討すべきといえます。
日本政策金融公庫には複数の融資プランがありますが、クリニック開業で使えるものは以下の3つです。
- 新規開業資金(新企業育成貸付)
- 女性、若者/シニア起業家支援資金(新企業育成貸付)
- 新創業融資制度(その他の融資)
新企業育成貸付の2つは7,200万円(うち運転資金が4,800万円)が上限、新創業融資制度は3,000万円(うち運転資金が1,500万円)が上限となっています。
5-2 信用保証協会の制度融資
各都道府県の信用保証協会が融資を保証することにより、創業者がスムーズに融資を受けられる仕組みとして「信用保証協会保証対融資(マル保融資)」があります。そのうち国・県・市町村などによって制定されたものが「制度融資」です。
制度融資の多くは低利または固定金利なので、他の融資と比べても利用しやすいといえます。ただし、認可を受けるための手続きが煩雑で、審査に時間がかかりやすいというデメリットもあるので、それを踏まえて検討しましょう。
一般社団法人 全国信用保証協会連合会 | 一般社団法人 全国信用保証協会連合会
5-3 医師会の開業支援ローン
各都道府県の医師会では、医師信用組合や地方自治体とともに開業医を資金面でサポートする「開業支援ローン」が用意されていることもあります。医師会への加入が利用条件ですが、物件購入費をはじめとする設備資金、開業初期の運転資金だけではなく、一般的に高額とされる医師会の入会費用も借りることができます。
借入上限額や融資期間、担保の要否といった条件は医師会ごとに異なるため、加入前の時点できちんと確認しておくことが大切です。
5-4 民間金融機関のプロパー融資
銀行や信用金庫といった民間金融機関からの直接融資も、クリニック開業資金の調達手段として検討できます。金融機関によっては、開業医向けのローンが用意されています。
また、開業地域にある地方銀行や信用金庫への相談は、地域との関係づくりという面でもメリットがあります。経営面でのサポートが提供されるケースもあるので、相談してみるとよいでしょう。
5-5 独立行政法人福祉医療機構(WAM)
「独立行政法人福祉医療機構(WAM)」とは、医療機関向けに病院や診療所などの整備で使う資金の貸付事業を行っている厚生労働省管轄の機関です。主に建築や土地取得のための資金、医療機器や備品を購入するための資金を融資しています。
借入上限額や融資期間は、融資対象や資金の種類によって異なるため注意が必要です。また、無床診療所は「診療所不足地域」に指定されているエリアしか利用できないので、融資が利用できるかどうか事前に確認しておきましょう。
5-6 リース会社
クリニック開業に際して、医療機器のリース契約を締結する場合、そのリース会社が提供している開業支援ローンを利用できることもあります。融資条件や借入上限額はリース会社によって異なります。
ただし、銀行と開業医をリース会社が仲介する形式で貸し付けるので、金利は高めに設定されています。
融資以外の資金調達方法
クリニックの開業資金は融資で賄うケースが一般的ですが、融資以外の方法でも資金を集めることはできます。場合によっては融資よりスムーズに調達できる可能性もありますが、メリットばかりではないため、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
6-1 知人や親族からの援助・借入
深い付き合いのある知人・友人、両親や兄弟姉妹といった親族から資金提供を受ける方法です。援助という形で資金が贈与された場合、返済する必要がないので、実質的に自己資金を増やせます。しかし、贈与税がかかる可能性があるため、税理士などに相談して対策を講じたいところです。
また、資金を借入する場合でも、契約書をきちんと作成して毎月の返済額などを定めるなど、実質的な贈与とみなされないような対策が必要不可欠です。
6-2 補助金・助成金制度の活用
所定の要件を満たせば、政府や地方自治体が管轄する補助金・助成金制度を活用できるケースもあります。クリニック開業に関連するものとしては、以下のような制度が挙げられます。
- 創業者向け補助金・給付金(都道府県)
- 事業継承・引継ぎ補助金(中小企業庁)
- トライアル雇用助成金(厚生労働省)
このような補助金・助成金は原則として返済不要なので、クリニック開業において大きな助けとなります。ただし、制度によっては審査が行われるため、必ず受給できるとは限りません。
クリニック開業の融資のことは専門家に相談を
クリニックを開業する場合、多額の開業資金を調達しなければなりません。自己資金だけで賄うことは困難なので、ほとんどの医師は融資を検討する必要があります。しかし、融資は種類が多いうえ、金額や返済に関する条件もそれぞれ異なるため、まずは専門家に相談したいところです。
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