医院開業コラム
個人医院の開業は、医師が選択できるキャリアの一つです。医師兼経営者として大きな責任を負うことになりますが、開業医ならではのメリットを享受できます。
一方、開業医を目指すにあたり「個人医院と病院はどう違うのか?」「将来的に医療法人化すべきなのか?」など、疑問点が出てくる先生も多いのではないでしょうか。
この記事では、個人医院の概要を踏まえつつ、病院との違いやメリット・デメリット、個人医院を開業する際の手続きや注意点について解説します。
- 個人医院とは
- 医師が個人医院を開業するメリット
- 開業医に求められること
- 個人医院を医療法人化するメリット
- 医療法人化するデメリット
- 個人医院の開業に必要な手続きと注意点
- クリニック開業は専門のコンサルタントに相談を
個人医院とは
個人医院とは、一般的に診療所・クリニックのことを指す言葉です。個人で診療所・クリニックを開業・経営している場合、その開業医はいわゆる「個人事業主」に該当します。医療法上に存在する医療機関の分類は「診療所」のみですが、通称として「医院」「クリニック」が使われています。つまり、個人医院と診療所・クリニックは単に呼び方が異なるだけです。
開業医を目指すなら、基礎知識として押さえておきましょう。
1-1 診療所・クリニックと病院の違い
医療法に明記されている医療機関の分類は「診療所」「病院」の2種類です。
先述の通り、診療所とクリニックは同一ですが、診療所・クリニックと病院は以下のような点に違いがあることから、明確に区分されています。
診療所 | 病院 | |
入院患者のベッド数 | 19床以下 | 20床以上 |
医師・スタッフの人数 | 医師1名だけで開業可能 | 最低3名以上の医師が必要 |
構造設備 | 必置施設や病床面積に関する規定は、診療所より病院のほうが厳格 | |
役割 | 外来診療・プライマリケアの提供がメイン | 入院診療・高度急性期医療の提供がメイン |
個人医院を開業する場合、病院との違いを把握しておくことも大切です。
1-2 初診料・再診料に差はある?
初診料・再診料を含む診療報酬については、診療内容が同じであれば診療所と病院で差が生じることはありません。ただし、医療機関における機能分担を図るため、200床以上の病院には「選定医療費」の徴収が認められています。
選定医療費とは、患者さまが紹介状を持たずに病院を受診した際、医療費に上乗せされる費用のことです。この制度は最初に医療費の安い診療所を受診してもらい、必要なら紹介状を受け取って病院に行くという流れを作るために設けられています。
医師が個人医院を開業するメリット
医師が個人医院を開業した場合、以下のようなメリットを享受できます。
- 年収アップを実現できる
- 理想の働き方を追求できる
これらのメリットは、開業医を目指す理由に直結するものです。それぞれ概要をまとめたので、ぜひご確認ください。
2-1 年収アップを実現できる
厚生労働省が2021年11月に発表した「第23回医療経済実態調査」によると、開業医の平均年収は2,729万円です。同調査には個人診療所の損益差額も明記されていますが、こちらは2019年時点で2,744万5,000円、2020年時点で2,298万2,000円となっています。
一方、同調査における勤務医の平均年収は1,467万円です。つまり、開業医の年収は勤務医のそれに比べて2倍近く高いので、大幅な年収アップが見込めるようになります。
実際の年収は診療科・年齢・地域などによって変動しますが、集患対策を成功させて経営規模を拡大すれば、年収5,000万~1億円台に到達することも不可能ではありません。年収アップを実現するなら、開業は外せない選択肢といえるでしょう。
2-2 理想の働き方を追求できる
開業医は自分自身がトップなので、診療内容や経営方針はもちろん、診療時間や休診日などもすべて自分の裁量で決められるようになります。そのため、勤務医時代では成し得なかった理想の働き方を追求できることもメリットです。
例えば、在宅医療やスポーツ医療といった特定分野に注力したい場合、その分野に特化して診療メニューを設定したり、医療設備を導入したりすることができます。また、完全週休2日制でワークライフバランスを整える、日曜診療や夜間診療に対応するといったことも自由です。
開業医に求められること
開業医は魅力的なメリットを得られる一方、勤務医にはないデメリットも発生するので、決して楽な働き方ではありません。開業を考えている場合、自分のスキルや目的を踏まえて、開業医に求められることを理解しておく必要があります。
3-1 経営者としての役割
開業医は患者さまの診療に携わる「医師」であり、なおかつクリニック経営全般に携わる「経営者(管理者)」です。勤務医と違い、日々の診療業務だけではなく、以下のような業務も発生するので、やるべきことが一気に増えます。
- マーケティング戦略の策定
- 集患対策の実施
- スタッフ採用
- 労務管理
- 各種行政手続き
- 外注業者の選定
- マニュアル整備
経営者としての役割を担う関係上、クリニック経営の安定化という使命を果たさなければなりません。もし経営がうまく軌道に乗らなかった場合、自分のみならずスタッフの生活にも多大な影響を与えかねないためです。
また、医療ミスやクレームといった問題が発生した場合、経営者として責任を問われることもあります。
3-2 看護師や受付・医療事務のマネジメント
先述の通り、開業医は医師・経営者という2つの役割を担うので、勤務医より業務量が大幅に増加します。診療内容や経営規模にもよりますが、クリニック経営は院長一人では成り立たないケースがほとんどなので、看護師や受付・医療事務といったスタッフの存在が欠かせません。
そして、診療の質や患者満足度を向上させるためには、スタッフのマネジメントにも注力する必要があります。日頃からしっかりコミュニケーションをとることはもちろん、定期面談などで悩みや問題を洗い出すことも大切です。
スタッフのモチベーションが下がると、業務に悪影響が生じるだけではなく、離職につながる可能性もあるので、クリニック経営に支障が出る前に対処しましょう。
個人医院を医療法人化するメリット
個人医院を医療法人化した場合、以下のようなメリットが発生します。
- 節税できる|法人税・役員報酬・退職金など
- 分院や介護事業所を開設できる
2つとも開業医として働くうえで有益なメリットなので、こちらも要チェックです。
4-1 節税できる|法人税・役員報酬・退職金など
医療法人を設立すると「法人税」が適用されるようになります。個人医院(個人事業主)が納める所得税の場合、累進課税制度によって税率は最大55%まで上昇しますが、法人税なら18%程度で済むため、高い節税効果が見込めるでしょう。
また、医療法人では「役員報酬」という形で経営者に給与が支払われるので、勤務医時代と同じ給与所得者に戻ります。すると「給与所得控除」が適用されるようになるため、さらなる節税効果を得られるのです。
そして、家族に理事報酬を支払う「所得分散」を活用すれば、個人の納税額を抑えながら退職金の準備ができます。退職金を受け取る際の課税対象は、退職機から控除額を引いた金額の1/2のみなので、ここでも節税効果が期待できるでしょう。
4-2 分院や介護事業所を開設できる
個人医院(個人事業主)と違い、医療法人は複数の医療施設を開設できます。本院以外に分院を設立したり、付帯業務として介護事務所や有料老人ホームを運営したりするなど、経営規模を拡大できることがメリットです。
新たな事業を展開すれば、個人医院だと実現が難しかった目的を達成できる可能性も出てきます。各医療施設の経営を軌道に乗せることで、さらなる年収アップが見込めるでしょう。
また、事業を広げること自体にやりがいを感じるという医師もよく見受けられます。
医療法人化するデメリット
医療法人化もメリットだけではなく、以下のようなデメリットがあります。
- 運営管理に手間がかかる
- 社会保険への加入義務
個人医院の医療法人化を考えているなら、メリット・デメリットの両方を踏まえて検討することが大切です。
5-1 運営管理に手間がかかる
医療法人を設立する場合、さまざまな手続きを行わなければなりません。これだけでもなかなか大変ですが、医療法人の設立後における運営管理はもっと手間がかかります。
例えば、以下のような業務が新たに加わるので、個人医院より負担が増えることは避けられないでしょう。
- 決算報告
- 法人税申告
- 資産総額の登記
- 役員重任の登記
- 理事会の開催・議事録作成
- 社員総会の開催・議事録作成
また、医療法人は地域医療を担う性質上、永続的な経営が求められているため、簡単に解散できない点にも注意が必要です。解散時の手続きも煩雑であり、場合によっては半年ほどかかります。
5-2 社会保険への加入義務
医療法人は従業員数を問わず、社会保険(健康保険・厚生年金)の強制加入対象となります。社会保険料は給与の約30%ですが、これは医療法人と従業員の労使折半なので、約30%分のうち1/2は医療法人側で負担しなければなりません。そのため、法人・従業員の双方において金銭的な負担が増加します。
ただし、医療法人を率いる理事長も社会保険に加入できること、求人広告で「社会保険完備」とアピールできることを踏まえれば、デメリットばかりではないといえます。
また、医師会に加入している医師の場合、所定の手続きを踏めば医師国保に継続加入することが可能です。
個人医院の開業に必要な手続きと注意点
個人医院を開業する場合、あらかじめ費用・手続き・開業場所などに関する知識を習得する必要があります。知識不足のまま準備を進めると、開業前あるいは開業後にトラブルが発生しかねないので、最低でも以下の内容は把握しておきましょう。
6-1 個人医院の開設に必要な費用
診療科や地域によって変動しますが、個人医院を開設するためには数千万円単位の費用が必要です。おおよその目安は5,000万円~1億円程度ですが、高額な医療機器を用いる脳神経外科で開業したり、戸建てのクリニックを開業したりする場合、それ以上の費用がかかる可能性もあります。
これだけの費用を自己資金だけで賄うことは難しいため、開業する際は融資を受けることが一般的です。開業時に利用できる融資としては、以下のようなものが挙げられます。
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会の制度融資
- 銀行プロパー融資
- 福祉医療機構
- リース会社
融資対象・融資限度額・返済期間・金利などは融資元によって異なるため、事前にホームページなどで確認しましょう。
6-2 個人医院の開業の流れ
個人医院の開業する際の基本的な流れは、以下の通りです。
- 開業コンサルタントへの相談
コンセプト・経営理念・事業計画などを策定します。 - 物件探し
コンセプトや経営理念に合った開業場所・物件を探します。 - 開業資金の調達・融資
融資を視野に入れつつ、開業するために必要な資金を調達します。
- 医療機器の準備
診療科や診療内容を踏まえつつ、必要な医療機器および什器備品を選定します。 - 内装工事の手配
広さ・動線・デザインなどに配慮しつつ、クリニックの内装工事を依頼します。 - スタッフ採用・研修
求人広告の出稿や選考活動を行います。採用後は開業に向けて研修も実施します。 - 集患のための広告宣伝
開業とともにスタートダッシュを切るため、あらかじめ集患対策を実行します。 - 医師会への加入(任意)
近隣の医療機関と連携できるよう、地域の医師会に加入すると、近隣の医療機関との連携や健診・予防接種などの委託といったメリットがあります。します。 - 各種行政手続き
保健所や厚生局などで必要な手続きを行います。
このように多くのステップがあるので、余裕を持って準備しましょう。
6-3 開業場所や開業形態の選定が最も重要
クリニック経営を成功させるためには、集患しやすい開業場所を選ぶことが何より重要です。どれだけ診療内容や医療設備が充実していても、開業場所の立地条件が悪いと思うように集患できず、経営状況が悪化しやすくなります。
開業場所を選定する際は、診療圏調査で一日あたりの外来患者数の推計を出しましょう。そのうえで交通の利便性や人通りの多さ、駐車場の有無など幅広くチェックします。
また、開業形態の選定も重要ポイントです。戸建て・テナント・医療モールなど、それぞれメリット・デメリットが異なるので、コンセプトや診療内容に合わせて選ぶ必要があります。
開業場所・開業形態は経営を大きく左右するので、綿密に調査したうえで慎重に検討しましょう。
6-4 調剤薬局の有無の確認
個人医院の開業にあたって、薬の処方方法についても検討する必要があります。
院外処方は薬剤師による丁寧な説明を受けられる、薬のバリエーションが豊富といった点がメリットです。一方、院内処方は会計が一度で済む、薬を安価に提供できるといったメリットがあります。
院外処方にする場合、開業場所の近隣に調剤薬局があるかどうか確認必須です。患者さまは薬をもらうために2軒訪問しなければならないので、距離があると負担を与えます。敷地内に調剤薬局がある医療モールで開業すれば、患者さまにとっても利便性が高いため、患者満足度の向上につながるでしょう。調剤薬局との距離や立地条件、クリニックの面積などに合わせて処方方法を検討しましょう。
クリニック開業は専門のコンサルタントに相談を
開業医として働く医師の多くは、個人医院(診療所・クリニック)の開設から独立の道を歩み始めています。勤務医より業務量や責任は大きくなりますが、年収アップや理想の働き方を実現できるという魅力的なメリットもあるため、検討価値が高いキャリアです。
しかし、クリニック開業には準備や手続きが必要なので、まずは専門のコンサルタントに相談することを推奨します。
日本調剤では、クリニック開業に関する充実のサポートを提供しているので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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