医院開業コラム
IT技術が発展して医療業界でもデジタル化が進む中で、処方箋をデータ化した「電子処方箋」の導入が進んでいます。クリニックを開業するにあたり、電子処方箋への対応が必要かどうか気になっている先生も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、電子処方箋の概要やメリットを踏まえつつ、電子処方箋を発行する際の流れや導入方法、運用の課題について解説します。
電子処方箋とは
電子処方箋とは、これまで紙ベースだった処方箋を電子化し、オンライン上で処方箋のやり取りを完結させる仕組みです。医療機関での業務効率化やデータ活用による利便性向上、患者さまの健康増進などにつながることが期待されています。
日本において電子処方箋はまだまだ普及していませんが、アメリカ・イギリス・エストニア・オーストラリアなどでは普及が進んでおり、診療の質の向上や紙の保管場所削減といった効果も実証されています。
1-1 電子処方箋の仕組み
電子処方箋を利用する場合、紙の処方箋に記入していた処方内容および調剤内容を電子化し、クラウド上の「電子処方箋管理サービス」に登録する必要があります。このシステムを介して、全国各地にある医療機関や薬局がそれぞれ処方箋のやり取りをしたり、疑義照会の情報連携を行ったりする仕組みです。
また、電子処方箋を使えば、蓄積された患者さまの薬剤情報を過去に遡って閲覧することも可能なので、より質の高い診療の実現が期待されます。
1-2 いつから始まる?義務化される?
電子処方箋の運用は令和5年1月からスタートしていますが、現時点ではまだ義務化されていません。一方、その前提となる「オンライン資格確認」の導入については、令和5年4月から原則義務化されています。
また、電子処方箋はデータヘルス改革の一環として、今後も連携対象となる情報が拡充される見込みです。
このように、厚生労働省の推進する医療DX計画は着々と進んでおり、今後も医療業界でデジタル化・IT化が進むことが予想されるため、医療機関では早めに対応方針を検討する必要があるといえます。
1-3 電子処方箋の対応状況
厚生労働省が公表した資料によると、電子処方箋は全国3,352施設(令和5年4月23日時点)で運用がスタートしています。内訳は病院9・医科診療所250・歯科診療所11・薬局3,082です。現状、システムや運用に関して大きなトラブルは発生していないと報告されています。
一方、事前の利用申請を行った施設数は50,412施設(令和5年4月23日時点)です。内訳は病院1,194・医科診療所19,216・歯科診療所11,084・薬局18,918となっています。
電子処方箋のメリット
電子処方箋を導入すれば、以下のようなメリットが得られるようになります。
- 診療の質の向上・業務効率化
- 他の医療機関や薬局と情報共有することで質の高い医療を実現
- 患者さまの利便性や満足度が向上する
それぞれ概要をご確認ください。
2-1 診療の質の向上・業務効率化
電子処方箋では、患者さまが処方・調剤された過去3年分のお薬のデータを確認できます。患者さまの記憶ではなく、記録されたデータをもとにお薬の処方状況を把握することが可能です。
処方内容・調剤内容はもちろん、重複投薬や併用禁忌がないかどうかもチェックできるので、診療の質の向上につながります。
また、医師が電子処方箋を発行する際、入力項目チェックや重複投薬等チェックといった機能を活用することで、形式上のミスによる問い合わせ件数の削減が見込めるのもメリットです。
薬局側でも電子処方箋管理サービスからデータを取得することで、処方箋の入力や印刷の手間を省ける、用紙や保管スペースの確保にかかるコストを削減できるといった利点があります。
2-2 他の医療機関や薬局と情報共有することで質の高い医療を実現
電子処方箋を導入すれば、患者さまの処方箋に関する直近のデータを確認できるうえ、リアルタイムで薬局との情報連携が可能となるため、より質の高い診察・処方の実現が期待できます。
複数の医療機関や薬局を横断しつつ、患者さまに対する処方内容・調剤内容をもとに電子処方箋管理サービスで重複投薬等チェックを実施することで、より実効性のある重複処方の防止が見込めます。
また、統一されたフォーマットでやり取りできることに加え、紙ベースの処方箋より薬局への伝達事項が充実するため、疑義照会件数の削減につながることもメリットです。「手書きで文字が読みづらい」「処方の意図がわからない」といった問題を解消できます。
2-3 患者さまの利便性や満足度が向上する
電子処方箋はクラウド上でお薬のデータを管理するので、医療機関や薬局での情報共有が容易になります。もし患者さまが医療機関や薬局を変更しても、処方関連の情報をすぐに取得できるため、結果的に患者さまの利便性が向上することもメリットです。
さらに、マイナポータルを利用すれば、オンライン上で自分の診療情報をチェックできるので、患者さまは自己管理がしやすくなります。
また、処方の待ち時間を減らせる、重複処方がなくなって薬代を安く抑えられるなど、患者さんの満足度を高めるメリットもあります。
電子処方箋発行の流れ
電子処方箋発行の流れは、以下の通りです。
- 受付で患者さまの本人確認および同意
- 病院や診療所が処方箋を発行・引換番号の通知
- 薬局で処方箋受付・服薬指導
- 調剤記録・保管(病院・診療所・薬局)
各ステップについて詳しく解説します。
3-1 受付で患者さまの本人確認および同意
電子処方箋を発行する際は、医療機関の受付にて患者さまの本人確認を行うとともに、過去の診療・お薬の情報提供に関する同意を得る必要があります。
マイナンバーカードの場合、顔認証付きカードリーダーで本人確認および同意手続きを実施したのち、処方箋の発行形態(電子/紙)を選択してもらいます。
健康保険証でも受付で対応可能ですが、その際は医療機関から患者さまに「引換番号」を通知しなければなりません。
3-2 病院や診療所が処方箋を発行・引換番号の通知
本人確認・同意手続きが完了したら、医師は処方するお薬を決定しますが、処方箋の発行形態を問わず、電子処方箋管理サービスで重複投薬等チェックを行う必要があります。重複や併用禁忌がある内容で処方する場合、その意図を入力することも可能です。
チェック作業が済んだら電子処方箋として登録し、お薬の情報を印字した「処方内容(控え)」を患者さまに渡します。また、登録後に電子処方箋管理サービスが発行する引換番号もセットで通知しましょう。
3-3 薬局で処方箋受付・服薬指導
薬局の受付でも患者さまの本人確認、情報提供に関する同意が必要となります。
マイナンバーカードの場合、医療機関の受付と同じく顔認証付きカードリーダーで本人確認および同意手続きが可能です。カードリーダーで電子処方箋のデータを読み込めるので、チェックや登録がスムーズに進みます。
健康保険証の場合、先述したように引換番号の提示が必須です。薬局の受付で伝えると、薬剤師が電子処方箋管理サービスから処方内容のデータを取得し、服薬指導とともに処方します。
3-4 調剤記録・保管(病院・診療所・薬局)
薬局でお薬を処方したら、薬剤師は調剤の情報をまとめた「調剤記録」を作成し、電子署名付きの電子処方箋とセットで電子処方箋管理サービスに送信します。その後、医療機関や薬局が「調剤済み電子処方箋(タイムスタンプ付与済み)」をクラウド上で保管・蓄積・共有し、より質の高い医療サービスの提供に役立てられる仕組みです。
医療機関はクラウド上に保管された調剤済み電子処方箋のデータを取得し、次回の診療時に参照できます。
電子処方箋の導入方法
電子処方箋の導入は、以下のような手順で進めます。
- オンライン資格確認の導入
- 医師・薬剤師のHPKIカード(電子署名)発行
- 電子処方箋に対応したシステムへの改修
- 電子処方箋の利用申請
各手順についても詳しく解説します。
4-1 オンライン資格確認の導入
先述の通り、電子処方箋を導入する場合、オンライン資格確認の導入が前提となります。それに伴い、以下のような作業や手続きが必要です。
- オンライン資格確認で用いる機器の準備(パソコン、顔認証付きカードリーダーなど)
- オンライン資格確認のポータルサイトでアカウント登録
- システム事業者へ見積もり依頼・発注
- ポータルサイトでオンライン資格確認の利用申請・電子証明書発行申請
スムーズに導入できるよう、早めにスケジュールを立てて調整しましょう。
4-2 医師・薬剤師のHPKIカード(電子署名)発行
電子処方箋を導入するためには、医師・薬剤師が電子署名を行う際に用いる「HPKIカード」が必要です。医師であれば「日本医師会電子認証センター」のホームページから申請できますが、発行まで数ヶ月かかる可能性もあるので、早めの対応を推奨します。
申請手続きでは、以下のような書類を用意します。
- 発行申請書
- 住民票の写し
- 身分証のコピー
- 医師免許証のコピー
また、日本医師会に加入していない場合、発行手数料として5,500円(税込)が必要です。
4-3 電子処方箋に対応したシステムへの改修
HPKIカードの発行申請と並行して、レセコンや電子カルテシステムも改修する必要があります。現在使用しているシステムが電子処方箋に対応していなければ、当然ながら導入もできないためです。システム事業者に依頼し、ソフトウェアの更新や既存システムの設定変更を行いましょう。
また、HPKIカードの読み取りに対応したICカードリーダーも準備しなければなりません。ICカードリーダーの選定で迷ったら、見積もりなどの際にシステム事業者へ相談しましょう。
4-4 電子処方箋の利用申請
システム改修に関する発注やHPKI読取用ICカードリーダーの準備が完了したら、ポータルサイトで電子処方箋の利用申請を行います。申請完了から約1週間程度で、電子処方箋管理サービスが稼動するシステムを利用できるようになります。
電子処方箋を運用するにあたり、ポータルサイトもしくはシステム事業者が提供する手順書に沿って、パソコンの設定作業を行う必要があります。設定作業が難しいと感じた際も、システム事業者に相談しましょう。
電子処方箋の導入に活用できる補助金
レセコン・電子カルテシステムの改修やICカードリーダーの準備など、電子処方箋の導入には費用がかかりますが、これらの費用を対象とする補助金制度があります。
補助金の申請手続きは電子処方箋のポータルサイトで行いますが、以下のような書類が必要です。
- 補助金交付申請書
- 領収書の写し
- 領収書内訳書の写し
- 事業完了報告書
また、補助金の上限金額や補助率は、運営形態や病床数によって変わります。令和5年度に電子処方箋を導入した施設については、以下の通りです。
大規模病院(病床数200床以上) | 病院(大規模病院以外) | 診療所 |
162.2万円を上限に補助
※事業額486.6万円を上限に、その1/3を補助 |
108.6万円を上限に補助
※事業額325.9万円を上限に、その1/3を補助 |
19.4万円を上限に補助
※事業額38.7万円を上限に、その1/2を補助 |
電子処方箋の運用の課題
電子処方箋を運用する場合、以下のような課題があります。
- セキュリティ確保
- オンライン資格確認やマイナンバーカード普及の問題
- システム改修やHPKIカード発行の遅れ
各課題の概要もまとめたので、ぜひチェックしてみてください。
6-1 セキュリティ面の問題は?
誰もが安心して利用できるよう、電子処方箋管理サービスのセキュリティ面はきちんと整備されています。
使用する回線は外部のインターネットから分離しており、事前に許可を得ている医療機関・薬局のみ通信可能です。オンライン資格確認等システムと電子処方箋管理サービスには関係者だけがアクセスできるので、不正アクセスや情報漏洩といったトラブルを未然に防ぎます。
もちろん、医療機関側でも、使用する端末や通信環境に関して個別でセキュリティ対策を講じることも大切です。
6-2 オンライン資格確認やマイナンバーカード普及の問題
導入の前提となるオンライン資格確認ですが、パソコンをはじめとする機器の準備やシステム事業者への発注など、複数のプロセスを踏む必要があります。タイミングや地域によっては遅れが生じる可能性もあるため、早めに作業や手続きを進めたいところです。
また、患者さまのマイナンバーカードに関して、医療機関での利用が進んでいないという問題もあります。現状、健康保険証で受診される患者さまも多いため、両方に対応できる体制を整えましょう。
6-3 システム改修やHPKIカード発行の遅れ
システム事業者がオンライン資格確認の導入対応などに追われていることもあり、電子処方箋用のシステム改修が進んでいないケースがあるようです。さらに、電子署名で用いるHPKIカードが届いていないケースも多いため、日本における電子処方箋の導入率はまだまだ低めです。
また、処方箋の発行者である医療機関と受領者である薬局の一方しか運用していないことから、電子処方箋の普及が進んでいないケースもあります。
日本調剤での電子処方箋の対応状況
ペーパーレス化の推進や医療DXの拡充に伴い、日本の医療業界でも電子処方箋の重要性が謳われています。しかし、オンライン資格確認の導入やシステム改修の遅れなどにより、現状の導入率は低いのが実情です。
日本調剤はシステム事業者として、早期に電子処方箋用システムの導入に対応しています。令和5年8月時点で636の薬局が運用をスタートしていますが、今後も普及に向けた取り組みを実施するため、電子処方箋について相談や質問があれば、お気軽にお問い合わせください。
また、日本調剤ではクリニック開業の無料サポートも行っています。開業物件の提案・診療圏調査・スタッフ採用の支援・内覧会の実施など、幅広いサービスを提供しているため、ぜひご相談ください。
医院開業コラム一覧
経営コンサルタントや税理士、社会保険労務士、薬剤師など、各業界の専門家による医院開業に役立つコラムをお届けします。
PAGE TOP