施設から在宅へと方針が厚生労働省から発表になり時間が経ちますが、その後、骨太の指針の中で特別養護老人ホーム(以下特養)の増設が謳われました。これは、一般企業の介護離職を抑えることを目的に政府が掲げた方針です。特養を増やすことで、親の介護等で東京や大阪を離れる会社員を減らし、国の経済力を維持していくことを目指しています。そのため、特養の増設を行っている地域も増えてきました。
ただし、地域によっては特養に空室があることがあります。
理由は、
・要介護3以上の高齢者を受け入れた特養側が入所者を「選別」していること
・職員不足により新規の入所者を受け入れられないこと
・競合の施設(サービス付高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホーム)が増加していること
などが主な理由です。
今後も特養の増設は続くと思われますが、それにより入居率100%であった特養も競争が発生することでしょう。
なお、特養が増えることは、他の施設系のサービスよりも自己負担額が少ないため、高齢者にとっては望ましいことです。しかし、特養が増えれば、代替施設として建設してきたサービス付高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームは空室となります。
実際、入居率が100%のサービス付高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームは、全国でそれぞれ23%と38%しかありせん。残りの77%と62%は空室があります。
供給が足りていないと言われているものの、実は空室が目立っています。これは、施設のサービス力が伴っていなかったり、価格がその地域の高齢者が払える金額でなかったりといくつか理由があります。その中で、最も大きな理由のひとつに医療対応が出来る施設が少ないというものが挙げられます。
ご存知の通り、高齢になってくれば、介護サービスだけでなく医療サービスも必要となります。しかし、医療法人でない介護事業者は医療サービスを提供することを「苦手」としています。医療対応というとターミナルや看取りを想像する方も多いかと思いますが、必ずしもターミナルや看取りが出来るということが求められているのではありません。ケアマネやソーシャルワーカーが求めているレベルは、医療区分Ⅰ以上の方を受け入れることができる医療サービスを提供できることです。
訪問看護等で医療区分Ⅰ以上の方にサービス提供が求められていますが、訪問看護が併設されているサービス付高齢者向け住宅は全体の8%しかなく、実際にはまだまだ整備が追い付いていません。訪問看護を併設し、医療区分Ⅰ以上の方を受け入れることの出来る施設は、基本的には空室がありません。 施設が足りないと言われてはいますが、正確には供給量が足りないということではなく、医療対応が出来る施設が足りないのです。入居者を集めることの出来る施設になるために必要なことは、「医療対応が出来る」=「医療区分Ⅰの方を受け入れる」ということだといえます。