医院開業コラム
デジタル技術の目覚ましい進化により、多くの分野で変革が起こっていますが、医療も例外ではありません。実際、医療業界でも「医療DX」によるIT化・デジタル化の動きが進んでいます。
一方、クリニックを開業するにあたって、医療DXにどう対応すべきか迷っている先生も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、医療DXの概要を踏まえつつ、注目される背景やメリット、具体的な事例、今後対処すべき課題について解説します。
- 1.医療DXの定義と意味を簡単に解説
- 2.厚生労働省が推進する「医療DX令和ビジョン2030」の概要
- 3.医療DXが注目される背景と医療業界の現状
- 4.医療DXのメリット
- 5.医療DXの具体的な事例を紹介
- 6.医療DXの課題
- 7.日本調剤の医療DXに対する積極的な取り組み
- 8.日本調剤の開業サポート
1.医療DXの定義と意味を簡単に解説
医療DXとは、保険・医療・介護の各プロセスにおける情報やデータを活用し、病気の予防促進や良質な医療および介護を実現するため、社会や生活の形を変えることです。DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、デジタル技術によって社会や生活をより良い形へ変革することを指します。
現在、日本は少子高齢化が著しく進行しているため、国民の健康増進や安定した医療・介護サービスの提供に向けて、医療業界のデジタル化が重要視されている状況です。さらに、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、迅速かつ広範囲のデータ収集やデジタル化による業務効率化なども急務とされています。
医療DXでは、国民自ら健康増進に取り組める仕組みの構築、診療品質の向上や新たな薬剤・治療法の開発加速化などを目指しています。
2.厚生労働省が推進する「医療DX令和ビジョン2030」の概要
厚生労働省は「医療DX令和ビジョン2030」の実現に向けて、以下の取り組みを進めています。
- 「全国医療情報プラットフォーム」の整備
- 電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテの検討
- 診療報酬改定DX
それぞれ詳細をまとめました。
2-1 「全国医療情報プラットフォーム」の整備
「全国医療情報プラットフォーム」とは、レセプト・特定健診情報・電子カルテ・電子処方箋といった医療(介護)情報を集約し、クラウド間連携によって全国の医療機関や自治体で共有できるプラットフォームです。
このプラットフォームを活用することで、マイナンバーカード持参で受診した患者さま本人の同意があれば、患者さまに関する情報を医師や薬剤師と共有できるようになります。その結果、より良い医療の実現に近づくだけではなく、患者さまご自身による健康増進の取り組みも促進することが可能です。
また、今後の感染症対策における情報収集の迅速化・精度向上にも寄与することが見込まれています。
2-2 電子カルテ情報の標準化、標準型電子カルテの検討
医療機関におけるデータ交換・共有を推進できるよう、交換規格に「HL7 FHIR」を採用したうえで、交換する標準的なデータ項目および電子的な仕様を定め、国として標準規格化しています。
厚生労働省では、2022年3月に以下の3文書6情報を「厚労省標準規格」として採択されました。
【3の文書】
- 診療情報提供書
- 退院時サマリー
- 健診結果報告書
【6の情報】
- 傷病名
- アレルギー情報
- 感染症情報
- 薬剤禁忌情報
- 検査情報(救急時に有用な検査、生活習慣病関連の検査)
- 処方情報
また、小規模の医療機関のために、当該標準規格に沿ったクラウドベースの電子カルテ「標準型電子カルテ」の開発も検討されています。
2-3 診療報酬改定DX
診療報酬改定のタイミングが到来すると、現状はベンダや医療機関が短期間かつ集中的に作業しなければならないので、どうしても業務に大きな負荷がかかってしまいます。疑義解釈や変更通知などに合わせて迅速な対応が求められるため、各ベンダは通常時の2.5~3倍の保守人数を投入しなければなりません。
特に改定施行日(4月1日)の前後は作業のピークを迎える時期なので、業務負荷はさらに増大しがちです。窓口負担金計算に向けてソフトウェアの改修・テスト・導入支援を行ったり、初回請求向けの対応に追われたりするため、医療DXによる作業の集約・平準化が検討されています。
3.医療DXが注目される背景と医療業界の現状
医療DXが注目を集めている背景には、医療業界が現状抱えている以下のような課題があります。
- 医療業界ではデジタル利用が遅れている
- 人手不足と超高齢化社会
- 医療格差の拡大
3-1 医療業界ではデジタル利用が遅れている
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発表した「国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰」によると、医療・福祉業界のDX取組状況(総務省調査)は9%です。同じ第一産業群だと農業・林業が45.4%、漁業が25.0%であり、医療・福祉業界は最も低いので、他業種に比べてデジタル利用が遅れています。
また、第二産業群だと最も低いのは建設業の21%、第三産業群だと電気・ガス・熱供給・水道業の32%ですが、それらと比べても医療・福祉業界の数値は低いといえます。
出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰」
3-2 人手不足と超高齢化社会
近年、厳しい労働環境や業務に対する責任の大きさなどが原因で、医師や看護師の離職率が高まっており、医療業界は人手不足が続いています。人手が足りない場合、現状勤務しているスタッフ1人あたりの業務量が増加するため、長時間労働や残業につながって、次の離職者が出てしまうという悪循環に陥りがちです。
また、少子高齢化が今後も加速すること、2025年に団塊の世代が後期高齢者になることから、人手不足のさらなる深刻化が懸念されています。
3-3 医療格差の拡大
一般的に人口が多い地域は医療機関の数も多く、逆に人口が少ない地域は医療機関の数も少ない傾向にあります。近年は都市部への人口集中や少子高齢化の影響もあり、過疎化が進んでいる地方において医療リソースの不足が問題となっている状況です。
地域による医療格差が拡大すると、患者さまが脳卒中や心筋梗塞など緊急性の高い病気にかかった際、迅速な処置ができず命を落としたり、重大な後遺症が残ったりする可能性も高まってしまいます。
4.医療DXのメリット
医療DXを推進することで、以下のようなメリットが期待されています。
- 業務効率化と医療サービスの質の向上
- 患者さまの健康増進
- データの保存・共有による危機管理対応
4-1 業務効率化と医療サービスの質の向上
電子カルテ・ネット予約システム・Web問診・オンライン診療など、デジタル技術を活かしたシステムやサービスを導入すると、各スタッフの業務効率を高めることができます。業務効率化によってスタッフの負担が軽減されることはもちろん、患者さまへの診療により集中できることもメリットです。
さらに、病歴・治療内容・検査結果・処方箋といった患者さまの情報をデータ化し、そのデータを各医療機関で共有・利活用すれば、より適切な医療を提供できるようになります。
また、医療サービスの利便性が向上すると、患者さまの負担も軽減されるため、結果的に満足度が高まることもメリットです。
4-2 患者さまの健康増進
医療DXの施策を実施することにより、今後は患者さまもご自身の医療情報にアクセスできるようになります。その結果、健康管理がしやすくなるだけではなく、ライフログデータや健診結果などを医療機関と共有することも可能です。
これらのデータを活用すれば、患者さま自ら病気の予防策を講じたり、健康づくりに取り組んだりすることができるので、結果的に患者さまの健康増進へとつながります。
また、患者さまの医療情報をビッグデータとして活用できるようになれば、製薬会社や医療機器メーカーでの事業に役立てられるため、新薬や新しい医療機器の開発にもつながるでしょう。
4-3 データの保存・共有による危機管理対応
問診票・カルテ・処方箋・診療明細など、医療情報のデータを紙媒体や自院のサーバーだけに保存していると、火災や地震が起こった際に喪失してしまう可能性があります。しかし、クラウド上に各種データのバックアップを取っておけば、万が一の際もデータを復旧することが可能です。
もし医療機関が被災しても大切な医療情報は失われないので、医療サービスの提供を継続できます。その結果、医療機関におけるBCP(事業継続計画)を強化できることもメリットです。
また、医療機関同士でデータを共有できる仕組みを構築すると、感染症拡大時の迅速な対応にも役立ちます。
5.医療DXの具体的な事例を紹介
- ネット予約
- オンライン資格確認
- オンライン診療
- オンライン服薬指導
5-1 ネット予約
ネット予約システムは飲食業界やホテル業界のみならず、医療業界でも広く導入されています。オンライン上で予約や問診まで完結できるようになれば、医療機関で働くスタッフの事務負担を軽減することが可能です。
また、患者さまの観点から見ても、ネット予約システムは利便性に優れています。診療時間に合わせて電話で連絡する手間を省けるだけではなく、来院後の待ち時間も短縮できるため、患者さまは時間をより有効に活用できるでしょう。
5-2 オンライン資格確認
オンライン資格確認とは、マイナンバーカードに組み込まれたICチップもしくは健康保険証の記号番号等により、医療保険に関する資格情報をオンライン上で確認できるシステムです。オンライン資格確認の導入は厚生労働省が推進する医療DXの基盤となるものであり、2023年4月から原則義務化されています。
このシステムを導入すると、医療機関・薬局の窓口で患者さまの資格情報を確認したり、一括照会を行ったりすることが可能なので、スタッフの事務負担が減ります。
5-3 オンライン診療
オンライン診療とは、パソコンやスマートフォンといった情報端末をインターネットに接続し、ビデオ通話やチャットなどを通じて医師と患者さまがやり取りする診療方法です。文字通りオンライン上で診断や治療ができるので、患者さまの利便性向上や医療機関の業務効率化、感染リスクの抑制につながることから、近年普及が進んでいます。
遠隔地や離島など通院が難しい地域からでも受診できるため、医療格差の是正が見込める点もメリットです。
5-4 オンライン服薬指導
オンライン服薬指導とは、パソコンやスマートフォンのビデオ通話アプリを使って、薬剤師から患者さまに処方薬の飲み方を指導するサービスのことです。オンライン診療と組み合わせることで、患者さまは自宅で診療から処方薬の配送まで完結できるようになります。
オンライン診療と同じく患者さまの利便性が高まるうえ、外出しないので感染リスクもありません。また、薬剤師が患者さまの自宅を訪問する必要もなくなるので、薬剤師の負担軽減および業務効率化につながります。
6.医療DXの課題
医療DXを推進する場合、以下のような課題にも対処する必要があります。
- 患者さまのITリテラシーの格差
- 医療機関での各種システムの導入負担
- セキュリティやプライバシーの問題
こうした課題も開業医なら把握しておくべきポイントです。
6-1 患者さまのITリテラシーの格差
ネット予約・オンライン診療・オンライン服薬指導を導入する場合、インターネットに接続できる環境はもちろん、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスも必須です。しかし、操作やフローが複雑化している場合、高齢者などITリテラシーの低い患者さまがスムーズに利用できない可能性もあります。
ITリテラシーの格差にも対処できるよう、わかりやすい操作マニュアルを作成したり、シンプルなフローを構築したりすることが求められます。
6-2 医療機関での各種システムの導入負担
医療DXを実現するためには、医療機関側でも必要なシステムを整備する必要があります。システムやデジタルデバイスの導入には、当然ながら一定の費用がかかるので、経営状況を踏まえて予算を組まなければなりません。
また、各種システムをスムーズに活用するためには、オペレーションの改善や専門スタッフの育成など業務面での負担も伴います。専門知識を有するスタッフを採用したり、外部のベンダに依頼したりするケースも出てくるでしょう。
6-3 セキュリティやプライバシーの問題
医療DXにおいて不可欠な患者さまの診療情報は、重要かつデリケートな個人情報なので、常にセキュリティやプライバシーの問題がつきまといます。不正アクセスや情報漏洩といったトラブルが起こってからでは遅いため、システム全体はもちろん、各医療機関側でも十分なセキュリティ対策を講じることが大切です。
また、情報セキュリティ教育や秘密保持契約を通じて、医療機関に携わるスタッフのセキュリティに対する意識も高めることも重要といえるでしょう。
7.日本調剤の医療DXに対する積極的な取り組み
開業医として働くつもりなら、義務化されているオンライン資格確認はもちろん、今後を見越してオンライン診療やオンライン服薬指導の導入も検討したいところです。しかし、デジタル技術に関する知識・技術が求められるので、専門家の力を借りることも検討すべきでしょう。
日本調剤は経済産業省が定める制度に基づき「DX認定取得事業者」の認定を受けています。これはDX推進の準備が整っていることを評価する制度ですが、調剤薬局業界での認定取得は当社が初です。
医療DXの推進とともに企業の成長や新たな価値創出を実現できるよう、日本調剤ではオンライン薬局サービス「NiCOMS」やオンライン診療検索「NiCOナビ」など、幅広いDX戦略に取り組んでいます。
8.日本調剤の開業サポート
今後クリニックを開業する場合、厚生労働省が提示している医療DX戦略を踏まえたうえで、適切に対応をとる必要があります。デジタル技術が進化している今、医療DXを推進する流れも続くと考えられるため、他院に先行して取り組みたいところです。
一方、クリニックを開業するためには、他にもさまざまな準備や手続きを進めなければなりません。日本調剤では、開業物件や医療機器に関する提案、診療圏調査や申請業務の支援などを実施しているので、ぜひ一度お問い合わせください。
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