医院開業コラム
インターネットやスマホの普及、感染症対策の推進などの影響により、昨今は「オンライン診療」に対応する医療機関が増加しています。それに伴い、オンライン診療の具体的なオペレーションが気になっている先生も多いのではないでしょうか。
オンライン診療を導入する場合、あらかじめ処方箋の取り扱いや薬の処方方法を把握しておくことが大切です。
今回の記事では、オンライン診療における処方箋の取り扱い、薬を処方する際の流れやクリニック側の準備事項などについて解説します。
- 1.オンライン診療における処方箋の取り扱い
- 2.オンライン診療における薬の処方・受け取りまでの流れ
- 3.オンライン診療で処方に注意すべき薬剤
- 4.オンライン診療に対応する上でのクリニックの準備
- 5.日本調剤の開業サポート
1.オンライン診療における処方箋の取り扱い
オンライン診療は遠隔で患者さまとやり取りする関係上、対面診療のように処方箋を直接渡すことができません。そのため、処方箋を受け渡しする際、異なるアプローチをとる必要があります。
オンライン診療における処方箋の取り扱いに関するルールは、厚生労働省が2022年9月30日に発出した事務連絡『「オンライン服薬指導における処方箋の取扱いについて」の改定について』で規定されています。
取り扱いルールの概要を以下で簡単に解説します。
1-1 処方箋をFaxまたはメールで薬局に送付
オンライン診療で薬を処方する場合、患者さまが希望する薬局にFaxまたはメールで処方箋情報を送付します。それに伴い、担当医師は作成した診療録に送付先の薬局名を記載しなければなりません。
薬局は送付元の医療機関から処方箋原本を受け取るまでの間、薬剤師法などの法律に基づいて送付された情報を一時的に処方箋として扱います。
1-2 オンライン服薬指導を希望される場合はその旨を記載する
患者さまがオンライン服薬指導を希望される場合、医師は処方箋の備考欄に「オンライン対応」と記載する必要があります。その後、あらかじめ患者さまの同意を確認したうえで、上記手順に沿って薬局へ処方箋情報を送付するという流れです。
従来、服薬指導は対面のみ可能でしたが、法改正によって2020年9月からオンライン服薬指導が正式に認められています。
1-3 発行した処方箋原本の取り扱い
医療機関は対面診療・オンライン診療のどちらを実施したかを問わず、患者さまに処方箋原本をお渡しすることはなく、あらかじめ処方箋情報を送っていた薬局に原本を送付します。
また、オンライン診療では以下のようなケースも想定されますが、いずれも処方箋の扱いは変わりません。
- 薬剤師の判断もしくは患者さまの希望により、オンライン服薬指導から対面での服薬指導に切り替えるケース
- オンライン診療のために患者さまへ処方箋をすぐ発行できず、その後に対面での服薬指導を行うケース
薬局は医療機関から処方箋原本を受け取った後、事前にFaxやメールで送付された処方箋情報と一緒に保管する必要があります。オンライン診療を導入するなら、薬局側の対応も把握しておきましょう。
2.オンライン診療における薬の処方・受け取りまでの流れ
オンライン診療でも対面診療と同様、薬の処方方法は「院外処方」「院内処方」の2種類です。国の政策や医療業界の変化により、現在は院外処方が主流となっています。
院外処方および院内処方の流れについても解説します。
2-1 院外処方の場合
院外処方とは、医療機関ではなく薬局にて薬の調剤・処方を行う方法です。オンライン診療の場合、基本的に以下のような流れで進みます。
- 患者さまがオンライン診療を受ける
- 医療機関が処方箋情報を薬局に送付する(または、患者さまの自宅に処方箋を郵送)
- 薬局から患者さまに服薬指導を行う
- 患者さまが薬を受け取る
また、患者さまが薬を受け取る際の方法は「薬局での受け取り」もしくは「自宅に郵送」の2パターンに分類されます。前者は患者さまが希望した薬局まで赴いて薬を直接受け取る、後者は薬局でのオンライン服薬指導後、薬を発送するという方法です。
なお、薬局での受け取りについては、患者さまのご家族などが代わりに薬を受け取ることもできます。
2-1-1 院外処方のメリット
院外処方の場合、先述したように薬局が調剤業務・処方業務を担ってくれるため、医療機関側は調剤や薬剤保管にかかる手間を省けるのがメリットです。
さらに、以下のような理由から収支面でも有利になるので、現状多くの医療機関で院外処方が採用されています。
- 処方箋発行による保険点数が高い(院外処方の処方箋料>院内処方の処方料)
- 調剤用のスペースや機器を用意する必要がない
- 薬剤師などを雇うための人件費をカットできる
- 薬剤の在庫リスクを負うことがない
オンライン診療でも服薬指導や薬の郵送といった業務を薬局に任せられるので、医療機関側の負担を軽減できます。
2-1-2 院外処方のデメリット
院外処方だと医療機関を受診後、わざわざ院外の薬局に行く、またはオンライン服薬指導を行ったうえで薬を調剤してもらわなければならないため、患者さまにとっては二度手間になる点がデメリットです。
また、院外処方で患者さまがオンライン服薬指導を希望されていても、薬局側が対応していなければ実施できません。そのため、オンライン服薬指導に対応している薬局との連携が必須です。
さらに、院内処方より合計の診療点数が高くなる関係上、患者さまの自己負担額が増えてしまいます。
2-2 院内処方の場合
院内処方とは、診療を実施した医療機関で薬の調剤・処方も行う方法です。オンライン診療の場合、基本的に以下のような流れで進みます。
- 患者さまがオンライン診療を受ける
- 医療機関で薬を調剤する
- 患者さまの自宅に薬を郵送する
以前は院内処方が主流でしたが、最近は医薬分業の推進や薬剤差益の減少といった影響を受けて採用する医療機関が減っています。
2-2-1 院内処方のメリット
院内処方の場合、診療から薬の調剤・処方まですべての対応を医療機関側で完結するので、患者さまは薬局まで足を運ぶ必要がなくなります。患者さまは身体的負担を軽減できるうえ、移動時間や薬局での待ち時間を削減できることもメリットです(ただし、院外処方でもオンライン服薬指導を行う場合は、同様に患者さまの負担を軽減できます)。
さらに、院内処方は院外処方に比べて診療点数が低いので、その分だけ患者さまの自己負担額が安くなります。
また、医療機関の観点から見た場合、処方箋に関する薬局とのやり取りの手間が省ける点もメリットです。Faxやメールでの情報送付、薬の内容や処方期間の変更といった対応をスムーズに進めることができます。
2-2-2 院内処方のデメリット
院内処方は調剤や薬剤保管などの対応をすべて医療機関側で対応しなければならない関係上、どうしても業務負担は増加してしまいます。必要に応じて薬剤師などのスタッフを雇わなければならないため、人件費がかかりやすい点もデメリットです。
さらに、調剤用機器の導入費用や薬剤保管スペースの増改築費用といった経費もかかってきます。
また、医療機関だと薬剤の在庫確保に限界があり、在庫のない薬はすぐ処方できません。しかし、逆に在庫を抱えすぎると、使用期限切れの薬を廃棄するために余計な手間や費用がかかる可能性もあります。
3.オンライン診療で処方に注意すべき薬剤
オンライン診療では、薬剤や処方方法に関して以下のような注意点があります。
- 麻薬及び向精神薬
- その他初診での投与について⼗分な検討が必要な薬剤
- 8日分以上の日数で処方する場合
- 初診からのオンライン診療に適さない症状
3-1 麻薬及び向精神薬
厚生労働省が公表した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」によると、オンライン診療の患者さまが初診の場合、麻薬や向精神薬の処方は行わないよう規定されています。これらの薬剤は心身への影響が特に大きく、なりすましや虚偽の申告による濫用・転売を防ぐ必要があるためです。
ただし、向精神薬については「厚⽣労働省が定めた本件に関する講義を受講した医師・精神保健指定医・精神科専⾨医は処方可」という例外規定があります。
3-2 その他初診での投与について十分な検討が必要な薬剤
一般社団法人日本医学会連合が公表した「オンライン診療の初診に関する提言」では、初診投与において注意が必要な薬剤を例示しています。例えば、以下のような薬剤です。
- 病原微生物に対する薬剤(抗菌薬、抗ウイルス薬など)
- 炎症・免疫・アレルギーに対する薬(副腎ステロイド薬、抗リウマチ薬など)
- 代謝系に作用する薬(糖尿病治療薬、脂質異常症治療薬など)
- 呼吸器系に作用する薬剤(気管⽀喘息治療薬、COPD治療薬など)
- 神経系に作用する薬剤(パーキンソン病治療薬、脳卒中治療薬など)
- 眼科系薬剤(散瞳薬、抗緑内障薬など)
- 皮膚科系薬剤(アトピー性⽪膚炎治療薬、白斑治療薬など)
なお、これらの薬剤は一律に処方不可というわけではなく、患者さまの状態に合わせた柔軟な対応が求められています。
3-3 8日分以上の日数で処方する場合
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」では、オンライン診療(初診)で基礎疾患等の情報が把握できていない患者さまに対し、8日分以上の処方は行わないよう提言されています。
また、重篤な副作用の発現が考えられる患者さまに処方する場合、特に慎重な対応を求めるとともに、処方後の服薬状況を入念にチェックするなど、リスク管理を最大限徹底しなければなりません。
さらに、基礎疾患等の情報が把握できていない患者さまには、特に安全管理が求められる薬剤(診療報酬における薬剤管理指導料の「1」の対象薬剤)の処方を避けるべきと記載されています。
3-4 初診からのオンライン診療に適さない症状
日本医学会連合の「オンライン診療の初診に関する提言」では、オンライン診療の初診に適さない症状も例示されています(以下、一部抜粋)。
- 内科系の症状(急性・亜急性の呼吸困難、強い腹痛、吐血、排便障害など)
- 神経系の症状(失神、意識障害、顔面麻痺、突然の視力低下など)
- 外科系の症状(出⾎などを伴う⼿術創の異常、術後の吐血や呼吸苦など)
- 泌尿器系の症状(急性発症の排尿困難、肉眼的血尿など)
- 産科婦人科系の症状(妊娠に関連する症状、性器出血、帯下など)
- 耳鼻咽喉科系の症状(片側性の難聴、骨折を疑う外傷、アナフィラキシーなど)
- 眼科系の症状(眼球外傷、急性の視力障害、多量の眼脂など)
- 整形外科系の症状(歩行困難、手足の麻痺、交通事故・労災事故に起因する症状など)
上記は医師向けの情報ですが、患者・予約受付応対⽤の指針も併せて掲載されています。
出典:一般社団法人日本医学会連合「⽇本医学会連合 オンライン診療の初診に関する提⾔」
4.オンライン診療に対応する上でのクリニックの準備
オンライン診療への対応にあたり、クリニック側で準備すべきことは以下の通りです。
- 厚生労働省の指針に沿って環境を整備して実施する
- オンライン服薬指導に対応した調剤薬局との連携
- 電子処方箋の導入
4-1 厚生労働省の指針に沿って環境を整備して実施する
オンライン診療を実施するためには、患者さまとビデオ通話を行うための通信端末やアプリ・サービスを用意するとともに、安全かつ快適な通信環境を整備する必要があります。インターネット回線の品質が不安定、クリニック周辺の騒音で音声が聞き取れないなど、適切な判断を妨げるような環境でオンライン診療を行ってはなりません。
また、患者さまに関する情報が漏れないよう、プライバシー性が高い外部から隔離された空間でオンライン診療を行うことも求められています。
詳細は厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に掲載されているので、開業準備の際に確認しましょう。
4-2 オンライン服薬指導に対応した調剤薬局との連携
オンライン診療と併せてオンライン服薬指導を導入すれば、診療~服薬指導まですべてオンライン上で完結できるので、オンライン診療のメリットをさらに活かせるようになります。これを実現するためには、オンライン服薬指導に対応した調剤薬局との連携が欠かせません。
日本調剤では、自社開発のサービス「NiCOMS(ニコムス)」でオンライン服薬指導に対応しています。「薬局が遠い」「忙しくて薬局にいけない」という患者さまでも、スマートフォンやパソコンから簡単に薬剤師とやり取りし、必要な薬を受け取ることが可能です。
また、日本調剤はオンライン診療サービス「curon(クロン)」や「LINEドクター」と連携を進めるなど、他社との協力体制も築いています。
<医療機関・団体向け>オンライン診療・服薬指導の導入支援なら日本調剤
4-3 電子処方箋の導入
電子処方箋とは、これまで紙ベースだった処方箋を電子化(デジタルデータ化)し、オンライン上でやり取りを完結させる仕組みのことです。診療品質の向上や疑義照会の削減など電子処方箋だけでも多くのメリットを享受できますが、オンライン診療と組み合わせることで、医療機関での業務効率化や患者さまの利便性向上につながります。
電子処方箋を導入するためには、オンライン資格確認の導入や医師・薬剤師のHPKIカード(電子署名)発行、顔認証付きカードリーダーや電子処方箋管理用ソフトウェアの導入といった準備作業が必要です。これらの準備作業は医療機関単独ではなく、薬局やシステム事業者と調整しながら進めることになるので、作業フローも確認しておきましょう。
5.日本調剤の開業サポート
インターネットやスマートフォンが普及している現在、地域医療の現状や課題を踏まえてもオンライン診療は非常に有用です。ただし、医師と患者さまが直接対面せずにやり取りするので、処方箋の取り扱いや処方の注意事項などをしっかり把握しておく必要があります。
また、オンライン服薬指導や電子処方箋の導入も併せて検討したいところです。オンライン診療とセットで運用すれば、クリニックと患者さまの双方がさらなるメリットを享受できるようになります。
日本調剤では、開業向け物件の紹介や開業全般のサポートも無料で行っています。患者さまにとって利便性の高いオンライン服薬指導の導入、それに伴う薬局との連携も踏まえて開業をご検討中なら、ぜひ一度ご相談ください。
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