医院開業コラム
クリニックを滞りなく運営するためには、看護師や受付といったスタッフの存在が欠かせません。そのため、開業にあたって「スタッフ定着率を高める方法」や「優秀なスタッフを採用するコツ」など、人事のノウハウを知りたいという先生も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、看護職員の離職率や入れ替わりの頻発による問題を踏まえつつ、離職する原因や退職を防ぐ方法、クリニック開業時のスタッフ採用のポイントについて解説します。
- 1.看護職員の離職率の現状
- 2.スタッフの入れ替わりが激しいと起こる問題
- 3.クリニックのスタッフが辞める原因
- 4.スタッフの退職を防ぐ方法
- 5.クリニック開業時のスタッフ採用のポイント
- 6.日本調剤の開業サポート
1.看護職員の離職率の現状
全国の病院を対象にした日本看護協会の「2022年 病院看護・助産実態調査報告書」によれば、2021年時点で正規雇用看護職員(新卒採用者や既卒採用者を含む)の離職率は11.6%となっています。回答病院における看護職員の合計人数は410,986人であり、そのうち47,522人が退職している状況です。
また、都道府県別の離職率も発表されていますが、最も高いのは「東京都」「神奈川県」でどちらも14.6%となっています。それに次いで「大阪府」が14.3%、「千葉県」が13.5%という結果です。
総退職者数の増減状況については「変わらない」という回答が最多で46.9%、その次に「やや増加した」が26.7%、「やや減少した」が15.2%で続いています。
出典:公益社団法人日本看護協会「2022年 病院看護・助産実態調査報告書」
2.スタッフの入れ替わりが激しいと起こる問題
スタッフの入れ替わりが頻発している場合、以下のような問題が起こる可能性もあります。
- 診療の質や患者さま満足度が下がる
- 業務が円滑に回らなくなる
どちらもクリニックの運営に悪影響をもたらすため、できるだけ避けたいところです。
2-1 診療の質や患者さま満足度が下がる
クリニックにおける診療の質は、医師だけでなく看護師をはじめとするスタッフの能力によっても左右されます。スタッフが定着していない場合、患者さま一人ひとりの症状や性格に合わせて医療サービスを提供することも難しくなるため、診療の質を維持できなくなる可能性があります。
かかりつけにしてくれている患者さまにきめ細やかな対応ができないと、クリニックに対する不安や不信感も増大しがちです。その結果、患者さま満足度が下がってしまう懸念があります。
2-2 業務が円滑に回らなくなる
患者さまの診療をスムーズに行うためには、業務フロー・物品・作業動線などの管理が欠かせません。しかし、スタッフの入れ替わりが激しい場合、大半のスタッフはクリニックの内部状況を細かく把握できていないケースも多く、結果的に業務が円滑に回らなくなる可能性もあります。
中途採用や派遣のスタッフを頼るとしても、クリニックのルールや業務内容を一から教えなければならないため、マニュアルの作成・準備・業務説明といった手間がかかることも問題です。
3.クリニックのスタッフが辞める原因
クリニックのスタッフが離職する原因は、以下の通りです。
- 業務過多・休みがとれない
- 人間関係のトラブル
- 給与・福利厚生
- 医院の設備や内装が古い
- 感染対策がおろそか
- やりがいが感じられない
それぞれ詳しく解説します。
3-1 業務過多・休みがとれない
近年、医療業界は慢性的な人手不足が続いているので、スタッフ1人あたりの業務負担が大きくなりやすい傾向にあります。特に看護師は人手不足が顕著であり、需要に供給が追いついていない状況です。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によると、看護師の有効求人倍率は2023年1月時点で2.47倍となっていますが、これは全職業平均の2倍弱です。
実際、クリニックの経営規模や業務量に対して、適正人数を配置できていないクリニックは少なくありません。「適切な労務管理ができず残業が増えた」「思うように休暇を確保できない」といった問題が離職につながるのです。
3-2 人間関係のトラブル
多くのクリニックはスタッフが女性中心であり、なおかつ少人数体制で稼動している傾向にあります。そのため、人間関係のトラブルが発生しやすい環境です。
例えば、教育担当の先輩スタッフとの折り合いが悪く、新人スタッフがすぐ辞めてしまうケースが見受けられます。また、いわゆる「お局様」の独裁的な立ち振る舞いに嫌気が差し、周りのスタッフが離職するケースも少なくありません。
さらに、院長のマネジメント不足やセクハラ・パワハラも離職につながる原因です。必要以上に厳しく指導・叱責すると、スタッフが萎縮して辞めてしまう可能性もあります。
3-3 給与・福利厚生
業界や職種を問わず、給与・福利厚生はスタッフのモチベーションを左右する重要ポイントです。しかし、クリニックの院長は経営や労務に関する知識・認識が不足しがちなので、適切な給与体系や職場環境を提供できていないケースも見受けられます。
先述の通り、医療業界は看護師をはじめ深刻な人手不足が続いているため、現在も「求人数>求職者数」の売り手市場です。これは求職者にとって有利な状況なので、より良い条件を提示する職場に転職されてしまう可能性も高くなっています。
3-4 医院の設備や内装が古い
クリニックに導入している設備や内装が古い場合、使い勝手が悪かったり、清潔感がなかったりするので、スタッフはストレスを感じやすくなります。特に業務で使用する医療機器やパソコンが古いと、業務効率も下がってしまいがちです。
また、故障や設備トラブルに対応したり、定期的に掃除・メンテナンスしたりする手間も生じるので、余計な業務負担をかけてしまう可能性も高まります。スタッフのモチベーション低下にもつながるため、離職の原因になってしまうのです。
3-5 感染対策がおろそか
新型コロナウイルス感染症が流行したこともあり、今なおクリニックには徹底的な感染対策が求められている状況です。その中で、防護服や空気清浄機の導入コストを懸念し、感染対策がおろそかになってしまうなど感染対策への意識が低い場合、患者さまのみならずスタッフにも不信感を与えかねません。
「患者さまを感染させたくない」という気持ちはもちろん、スタッフ自身も「感染リスクを避けたい」「安心できる環境で働きたい」と考えるためです。
3-6 やりがいが感じられない
多くの看護師は看護業務に対し、真摯な想いを持って働いています。しかし、一方で「雑務が多くて本来の業務に集中できない」「真面目に働いているのに評価されない」といった理由から、働く意欲を削がれてしまう可能性もあるでしょう。
日本医労連・全大教・自治労連が発表した「2022年 看護職員の労働実態調査」によると、看護業務のやりがいは「少し感じる」という回答が最多で66.2%ですが、「強く感じる」は10.8%にとどまっています。
出典:日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査」
4.スタッフの退職を防ぐ方法
スタッフの退職を防ぐためには、以下のような方法を実践する必要があります。
- 適正人数を配置する
- 業務効率化・IT化
- 経営理念の浸透と目標の共有
- 評価・教育体制の構築
- 定期的な面談で要望や不満をヒアリングする
- スタッフのニーズに即した医院環境(スタッフルームなど)
4-1 適正人数を配置する
円滑なクリニック運営を実現するためには、適正人数の看護師・受付を配置しなければなりません。スタッフの数が足りなければ、その分だけ1人あたりの業務負担が増えてしまうので、不平不満も発生しやすくなります。
しかし、闇雲にスタッフを増やすと人件費がかさんでしまうため、既存スタッフの退職を防ぎつつ、必要に応じて補充することが大切です。
厚生労働省が公表した「医療経済実態調査」によると、2022年時点における個人医院の給与費は売上に対して25%です。ただし、スタッフの適正人数はクリニックの経営規模や業務量、診療内容などによって異なります。
また、各スタッフの給与も経験や資格によって変動するため、給与費の比率はあくまで参考程度に覚えておきましょう。
4-2 業務効率化・IT化
診療の質を高めつつ、人件費の適正化を図るという観点からは、業務効率化によってスタッフの業務負担を減らし、最小限の人数でクリニックを運営するという考えも重要です。無理なくスムーズに業務を回すことができれば、スタッフも定着しやすくなります。
業務効率化を実現するためには、業務フローや作業動線の見直しはもちろん、各業務でIT化を進めることも大切です。スタッフや外部のベンダと相談しつつ、電子カルテやネット予約システムなどの導入を検討しましょう。
4-3 経営理念の浸透と目標の共有
仕事にやりがいを持ってもらい、スタッフ全員で協力しながら円滑に業務を進めるためには、クリニックの経営理念や方針を明確にしつつ、具体的な目標を共有することも大切です。スタッフにきちんと伝わっていない場合、今後どう働くべきかという点で迷いが生じたり、仕事への不平不満を抱いたりする可能性が高まってしまいます。
また、このような基準を設定しておくことで、採用時のミスマッチ防止にもつながるため、余計な手間やコストを抑えられるでしょう。
4-4 評価・教育体制の構築
スタッフに長く働いてもらうためには、仕事に対するモチベーションも管理する必要があります。例えば、スキルアップや資格取得のサポートを実施したり、仕事ぶりに対する適切な評価および給与への反映といった仕組みを作ったりすれば、モチベーション維持・向上につながるでしょう。
さらに、教育体制を整えることも大切です。新人スタッフがスムーズに仕事を覚えられるとともに、既存スタッフの業務負担を増やさないためには、マニュアルの整備や教育内容の見直しを図る必要があります。
また、スタッフが気軽に質問しやすい環境を作ることも意識しましょう。
4-5 定期的な面談で要望や不満をヒアリングする
クリニック内で良好な人間関係を構築するためには、コミュニケーションの機会を増やすことも大切です。定期的な面談を実施し、スタッフの要望や不満をヒアリングすることで、退職を未然に防ぎやすくなります。
ただし、たまに面談するだけで本音を聞き出すことは難しいため、日常的にコミュニケーションをとることも心がけたいところです。無理に食事会や飲み会を開催する必要はなく、業務の空き時間にちょっと会話するだけでも、スタッフと打ち解けやすくなるでしょう。
4-6 スタッフのニーズに即した医院環境(スタッフルームなど)
患者さまはもちろん、院長自身やスタッフが気持ちよく仕事ができる環境を整えることも、スタッフの定着率向上に欠かせない取り組みです。例えば、スタッフルームの設備を充実させたり、更衣室やトイレをきれいに整備したりすれば、職場でのストレス軽減につながるでしょう。
また、看護師や受付が本来担当すべき業務に集中できるよう、クリニック内の清掃を別途業者に依頼したり、専属のクリーンスタッフを雇ったりするのも一案です。ある程度コストはかかりますが、スタッフの退職を防ぐという目的を踏まえれば、検討する価値は高いでしょう。
5.クリニック開業時のスタッフ採用のポイント
スタッフを採用する際は、以下のポイントを意識したいところです。
- 適切な賃金に設定する
- 余裕を持って採用スケジュールを立てる
- 面接で慎重に応募者を見極める
- 開業前に研修期間を設ける
5-1 適切な賃金に設定する
賃金はスタッフのモチベーションに直結する重要な要素です。賃金を高く設定すれば、応募件数や求職者の質の向上が期待できますが、人件費の負担も大きくなるため、慎重に検討しなければなりません。
現在の医療業界は売り手市場なので、似たような診療内容・経営規模・地域で他院の求人をチェックしたうえで、適正な給与・待遇を提示しましょう。
5-2 余裕を持って採用スケジュールを立てる
新しいスタッフを雇う場合、採用前後に複数のプロセスを踏まなければなりません。求人募集・採用面接・研修・各種手続きはもちろん、求職者の決断にかかる期間なども考慮し、できるだけ余裕を持ったスケジュールを建てたいところです。
また、転職を検討している求職者であれば、現在の職場への退職告知期間も考える必要があります。
なお、優秀な人材ほど他院と争奪戦になりやすいため、採用が決まったら早めに連絡することも大切です。
5-3 面接で慎重に応募者を見極める
書類選考だけで求職者の資質は把握できないので、面接で直接話して確かめる必要があります。
面接では、求職者の人柄やスキルはもちろん、志望動機・転職理由・診療に対する考え方などもチェックし、自院の経営理念や診療内容とマッチするか見極めることが大切です。アンマッチを防ぐため、クリニックの方針や就業規則を伝えて、きちんと理解してもらうことも重要となります。
多面的な判断をするために、家族やコンサルタントなどに相談・同席してもらうのも一案です。
5-4 開業前に研修期間を設ける
経験豊富な人であっても、慣れない環境でスムーズに業務をこなすことは簡単ではありません。開業後の運営を適切に進めるためにも、採用後はクリニック開業前に研修期間を設けて、診療や受付のシミュレーションを行いたいところです。
採用スケジュールが押していて十分な研修期間を設けられない場合、開業日を先に延ばすことも検討しましょう。
6.日本調剤の開業サポート
診療科や経営規模に関係なく、クリニック運営には看護師や受付といったスタッフが必要不可欠です。医療業界は今も人手不足が続いているので、貴重な人材を失わないためにも、採用計画やマネジメント体制をきちんと整備しましょう。
日本調剤では、クリニック開業を成功に導くために優良物件の紹介や無料の開業サポートを実施しています。求人広告や面接・採用に関するアドバイスはもちろん、就業規則作成に向けた社会保険労務士の紹介も可能なので、ぜひ一度お問い合わせください。
医院開業コラム一覧
経営コンサルタントや税理士、社会保険労務士、薬剤師など、各業界の専門家による医院開業に役立つコラムをお届けします。
PAGE TOP