医院開業コラム
医院継承とは、すでに開業しているクリニックの運営を引き継ぐことです。親から継承するケースはもちろん、血縁関係のない第三者から継承するケースもあります。
クリニック開業は物件を購入または賃借して新規開業するパターンが主流ですが、近年は医院継承も注目されており、どのような選択をすべきか迷っている先生も多いのではないでしょうか。
この記事では、医院継承のメリット・デメリットや注意点、医院継承の基本的な流れなどについて解説します。
医院継承が注目されている理由
近年、医療業界を取り巻く状況が変化していることもあり、既存のクリニックの運営を引き継ぐ形で開業する「医院継承」が注目されています。
開業にあたって医院継承を検討しているなら、その背景も押さえましょう。
1-1 院長の高齢化
現在、日本は全人口に対して65歳以上の人口が21%を超える「超高齢社会」に突入しています。高齢化の影響はさまざまな方面に及んでいますが、医療業界も例外ではありません。
厚生労働省が発表した「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、医師の平均年齢は2020年時点で60.2歳であり、ここ10年以上は上昇傾向が続いています。
これに伴い、クリニックを運営する院長の高齢化も進んでいるため、医院継承のニーズが高まっていると考えられます。
一方、高齢を理由に引退を考えているものの、肝心の後継者が見つからなくて困っているクリニックも少なくないようです。
出典:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
1-2 親子継承と第三者継承
医院継承というと、従来は親子間・親族間で引き継ぐケースが一般的でした。しかし、近年は子供が医師でも跡を継がない、あるいは後継者になれる親族がいないといった事情から、廃業の危機に陥っているクリニックも少なくありません。
このような背景から、最近は血縁関係のない人物にクリニックを譲る「第三者継承」が増加しています。開業を検討している個人医師へ引き継ぐケースのほか、医療法人によるM&Aというケースもあります。
また、個人で継承先または継承元を見つけることは難しいため、開業・継承をサポートする仲介業者も増えているようです。
医院継承で開業するメリット
これからクリニックを開業するにあたって、医院継承は前向きに検討すべき選択肢です。新規開業にはないメリットを享受できるので、資金繰りや集患といった面で有利になります。
2-1 開業の初期費用を抑えられる
医院継承の場合、クリニック用の建物を新しく用意する必要がないので、物件の取得費用や内装工事費を削減できます。さらに、医療機器や院内設備も使える分はそのまま引き継げるため、新規開業より初期費用を抑えやすいのがメリットです。
また、新規開業だとスタッフを一から集めなければなりませんが、医院継承なら既存のスタッフを引き継げるケースもあるため、採用にかかるコストや手間も低減できる可能性があります。
開業時の初期投資や借入額を抑えられれば、開業後の収支が安定しやすくなるため、資金問題に懸念を感じている先生にとっては、医院継承による開業は検討価値が高いといえるでしょう。
2-2 既存の患者を引き継げる
クリニック経営は患者さまがきちんと来院して初めて成立するので、開業前・開業後を問わず集患施策に取り組む必要があります。
医院継承の場合、もともとの立地条件が良く、かつ継承前の患者さまが引き続き来院してくれれば、開業当初から安定した集患を見込めるのがメリットです。
2-3 開業までの準備期間を短縮できる
医院継承では、継承元との交渉がスムーズに進めば、物件取得・内装工事・設備導入・スタッフ採用といった工程をカットできる可能性があります。クリニック経営を成功させるためには、開業前から入念に準備しなければなりませんが、その準備期間を短縮できるのはメリットです。
また、先述したように医院継承は既存の患者さまを引き継ぐことで、ゼロベースで集患施策に取り組まなくて済むケースもあります。
2-4 収支予測を立てやすい
クリニック経営の長期安定化を図るためには、開業前から収支の見通しを立てることが大切です。
医院継承の場合、継承前はどのような経営状況で運営していたのかを参考にでき、来院患者数・収益・経費・税金といった数値データも取得できます。さらに、既存の患者さまを引き継ぐことができれば、開業後の収支予測を立てやすくなるでしょう。
その結果、運転資金がいくら必要なのか的確に判断できるので、初期費用を最小限に抑えることにもつながります。
医院継承のデメリット
医院継承は有益なメリットが得られる一方、いくつかのデメリットが発生します。「こんなはずでは…」と後悔したくない方は、デメリットについても把握してください。
3-1 選択肢が少ない/希望に合った案件を見つけづらい
医院継承は既存のクリニックを引き継ぐため、新規開業向けの土地や建物より選択肢が少なく、自分の希望に合った案件が見つからないことも珍しくありません。
クリニックを開業する場合、特に重要なポイントが立地条件です。質の高い医療サービスを提供できるとしても、診療方針に合っていない立地ではターゲットとなる患者層にアプローチできず、結果として集患が難しくなってしまいます。
医院継承はどうしても案件の選択肢が限られるので、理想のクリニック経営を実現するにあたって、多少の妥協が求められる可能性もあるでしょう。
3-2 診療・経営方針の違いによるトラブルの可能性
医院継承で開業するにあたって、継承元と異なる診療・経営方針を掲げる場合、新しい方針が合わず既存の患者さまが来院してくれなくなる可能性もあります。医院継承の利点を活かすには、既存の患者さまに対する周知・配慮は欠かせません。
また、診療・経営方針を変えると、既存のスタッフが戸惑ってしまったり、反発を招いてしまったりすることも考えられます。継承元のスタッフを引き継ぎたいと思っていても、信頼・理解を得られなかった場合、退職者が出てしまうかもしれません。
3-3 医療機器や内装などの刷新が必要な可能性
継承元の資産を引き継げることは医院継承のメリットですが、医療機器が古くて使いづらかったり、内装や院内設備の老朽化が進んでいたりするケースも見受けられます。買い替え・改装・修繕などが多く必要になると、思ったよりも開業費用がかさんでしまうかもしれません。
また、継承時は問題なくても、早いタイミングで買い替えが必要になる可能性もあります。開業後の経営に支障が出ないよう、事前に状態をしっかり確認することが大切です。
医院継承で開業する際の注意点
医院継承は開業を検討している医師にとって、安定したクリニック経営を実現させる大きなチャンスとなります。しかし、チャンスの裏にはリスクがつきものです。そこで、医院継承で開業する際の注意点についても解説します。
4-1 経営状態、財務状況をきちんと確認する
医院継承の案件によっては、対価として支払う費用が極端に安かったり、無償で譲渡してもらえたりするケースもあります。しかし、このような案件には何らかのリスクが潜んでいると考えるべきです。
例えば、ただ後継者がいないというだけではなく、経営自体がうまくいっていない、金銭面でのトラブルを抱えているといった可能性もあります。継承元の経営状態や財務状況をきちんと確認したうえで、交渉や契約に進むことを心がけましょう。
4-2 可能であれば閉院前に実際に勤務医として診療をしてみる
継承元のクリニックに関する情報を集めたいなら、あらかじめ院長から許可を得る必要がありますが、閉院前に勤務医として診療業務を担当してみるのも一案です。内見や面談だけではわからない部分も含めて、クリニックの経営理念や診療方針、実際の経営状況をより詳しく確認することができます。
また、勤務医として働くことにより、あらかじめ既存の患者さまやスタッフと関係を構築できるため、医院継承がよりスムーズに進むこともポイントです。
4-3 スタッフの引き継ぎの検討
院内環境や地域事情、既存の患者さまのことを理解しているスタッフは、継承開業するクリニックにとっても心強い存在です。医院継承後も引き続き勤務してくれる場合、各業務を効率的に進められるだけではなく、既存患者の離脱を防ぐことも期待できます。
ただし、もともとの勤務状況や継承の進め方によっては、スタッフの引き継ぎが適切でないケースもあります。また、継続雇用する場合は後々トラブルが発生しないよう、事前に診療方針や雇用条件をきちんと確認しましょう。
4-4 近隣の医療機関の確認、地域や医師会との関係構築
医院継承で開業する場合、継承元が連携していた医療機関や所属していた組織を確認しておくことが大切です。精密検査や手術が必要になると、個人経営のクリニックでは対応できないケースも多いので、連携のとれる医療機関の存在は欠かせません。
また、開業地域における関連機関や医師会との関係構築も重要です。特に医師会とのつながりは勤務医の頃より強くなるので、開業前から入会の流れや活動状況をきちんと把握しておきましょう。
医院継承の費用相場
医院継承の手続きにおいて発生する費用は、大きく分けると「譲渡対価」と「仲介手数料」の2種類です。
譲渡対価は、クリニックを引き継いで開業する継承者から継承元の前院長へと支払います。案件によって金額は大きく変動しますが、相場は2,000万~4,000万円といったところです。
一方、後者はM&A仲介業者などにサポートを依頼した場合、報酬として支払います。こちらは譲渡対価の10%を支払うといった報酬体系が多いので、200万~400万円はかかると考えておきましょう。
医院継承の流れ
医院継承による開業を検討しているなら、準備や手続きの流れを押さえておくことも大切です。どのタイミングで何をすべきか把握できていないと、思わぬトラブルを招く可能性もあります。そこで、医院継承の基本的な流れをまとめました。
6-1 開業コンセプトを明確にする
医院継承であっても、開業コンセプトは必要不可欠です。一般的にクリニックを開業する場合、1年以上の準備期間を要するので、それを目途に策定しましょう。
- どのような診療がしたいのか
- どのような患者さまをターゲットにするのか
- クリニック経営で何を実現したいのか
上記のような開業コンセプトを明確にしておけば、自分に合った立地や案件を探しやすくなります。クリニックが目指すべき方向性をきちんと決めておくことは、適切な意思決定につながります。
また、開業コンセプトの内容をもとに、具体的な事業計画も策定しておく必要があります。
6-2 専門家へ相談して候補先を選定する
医院継承の継承元を探す場合、まずはクリニックの開業・継承に詳しいコンサルタントへ相談すべきです。
案件数が少ないとはいえ、希望に合った継承元を見つけることは容易ではありません。勤務医として働きながら準備を進める場合、なかなか時間をとれず、スケジュールに遅れが発生する可能性もあります。
専門のコンサルタントなら継承元に関する情報はもちろん、手続きの流れや交渉のノウハウにも精通しているため、開業医にとって心強い味方となるでしょう。
6-3 内見・院長先生との交渉
継承元として気になるクリニックが見つかったら、実際に現地まで行って内見したり、院長と面談したりするなど、現況確認を実施しましょう。
クリニックの内見では、内装・医療機器・院内設備・動線などをしっかり確認します。また、実際の診療の雰囲気やクリニック周辺の環境もチェックしたいところです。
院長との面談では、不明点や疑問点やあらかじめメモ帳などにまとめて、細かい部分まで確認しましょう。一通り確認が終わったら、継承条件を調整するための交渉に移ります。
継承元の選定では、複数のクリニックをピックアップしつつ、内見・面談を重ねて絞り込んでいくといいでしょう。
6-4 契約・継承~開業
継承条件を交渉してお互いに合意できたら、基本合意書を締結してから買収監査(デューデリジェンス)を実施します。買収監査とは、継承元の経営リスクや財務情報を調べるものです。
買収監査で問題がなければ、あるいは継承条件の最終調整が終わったら、最終譲渡契約書を締結した後、対価を支払って医院継承が完了となります。ただし、医院継承の契約を交わしても、すぐ開業できるわけではなく、管理者(院長)変更に伴い保健所や地方厚生局での行政手続きを進めなければなりません。
また、必要に応じて内装工事や医療機器の刷新、スタッフの採用や研修、継承開業についての広告宣伝なども行います。
新規開業か医院継承か?まずは開業コンサルタントに相談を
医院継承による開業では、初期費用の削減・準備期間の短縮といったメリットを享受できます。一方、デメリットやリスクもあるため、希望条件や今後のビジョンによっては新規開業が適しているケースも多いでしょう。
医院継承に興味がある場合でも、選択肢を広く持った状態で、まずは開業コンサルタントに相談するのがおすすめです。専門家のアドバイスを受けることで、今まで見えてこなかった問題が表面化することもあります。
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