医院開業コラム
開業に興味はあるものの、経営に自信がないという先生も多いのではないでしょうか。
実は医師以外に病院・クリニックの開業準備や経営を任せて、自らは院長として患者さまの診療に専念する方法があります。ただし、さまざまな制約が生じるため、事前に把握したうえで検討すべきです。
この記事では、医師以外が病院・クリニックを経営する具体的な方法やメリット・デメリット、クリニック開業の流れなどについて解説します。
病院やクリニックの経営は医師でないと難しい?
一般的に病院やクリニックは医師が経営していますが、医師以外がその役割を担うことは難しいのか、気になるポイントではないでしょうか。そこで、病院やクリニックの経営に関する要件、医師以外が経営することの是非について解説します。
1-1 医院の管理者は医師免許が必須
病院・クリニックの経営主体は大きく分けると「個人」と「法人」の2種類があります。また、医療機関では、開設・経営に対して責任を負う「開設者」と、医療機関の管理を担う「管理者(院長)」が存在し、管理者については医師免許が必須であることが前提です。
個人クリニックの場合、開設者=管理者となるため、医師免許を保有する医師以外が経営主体になることは困難です。医師以外が個人クリニックの経営にタッチするためには、後述のMS法人として外部から医院経営をサポートする形が基本となります。
一方、医療法人の場合は、法人が開設者となります。医療法人の最高意思決定機関である「社員総会」において過半数を占めれば、実質的に医師以外が医療機関を経営するの目指すことが可能です。社員総会は最低3名から構成される機関なので、少なくとも2名以上の票が必要です。
また、医療法人も個人クリニックと同様、外部から間接的に経営をサポートできるので、目的や資金に応じて適した方法を選択できます。
1-2 医師以外が主体となって経営するのは可能か?
医療法により、営利を目的とする病院・クリニックの開設は原則認められていません。そのため、一般的な株式会社や医師免許を持たない個人が病院・クリニックの経営へ参画することには制約があります。
しかし、医療法人や後述する一般社団法人であれば、一定の条件を満たすことにより、開設者として病院・クリニックを開業することが可能です。医療法をはじめとするルールに則る必要はありますが、医師以外でも実質的に経営主体となれるので、高齢者支援や地域医療への貢献といった非営利目的のために活動できます。
実際、あまり表には出ていないものの、非医師が病院・クリニックの経営に携わっているケースは見受けられます。
医師以外が病院・クリニックを経営する方法
医師以外が病院・クリニックを経営する場合、以下のような方法があります。
- 医療法人を設立して開業する
- 医療法人を買収する(M&A)
- MS法人として企業が運営をサポートする
- 一般社団法人を設立して開業する
それぞれ概要をまとめました。
2-1 医療法人を設立して開業する
先述の通り、医療法人なら「社員総会」の過半数を占めることで、医師以外でも開設者になって経営権を得ることが可能です。
ただし、より強い経営権を有する理事長については、原則として「医師もしくは歯科医師である理事から選定しなければならない」と医療法で定められています。例外として都道府県知事の認可を受けた場合、医師以外が医療法人の理事長になれるという規定もありますが、一定の運営実績などが求められるので、決して簡単ではありません。
また、いきなり医療法人としてクリニックを新規開業するのはハードルが高く、手続きにも手間がかかる点にも注意しましょう。すでに一定の経営実績を有する個人開業医で、なおかつ法人成りして理事長になってくれる医師を探さなければならないので、スムーズに開業できない可能性もあります。
2-2 医療法人を買収する(M&A)
上記で解説したように、医療法人を新設するパターンはどうしても選択肢が限られます。そのため、医師以外が病院・クリニックの経営する方法としては、既存の医療法人を買収(M&A)し、社員として参画するほうが現実的です。
そのためには、対象となる医療法人の出資持分や基金拠出者の地位を取得したうえで、社員総会において議決権の過半数を占める必要があります。医師以外でも社員になれば、社員総会で医療法人の予算や役員人事、定款の変更といった重要事項を議決できるようになるため、実質的に医療法人を通じて病院・クリニックの経営に参画できるのです。
ただし、医療法人の役員と営利法人の役職員を兼務する際は、さまざまな制約が発生します。開設者が開設・経営における責任主体でなくなるかもしれない場合、行政指導が入る可能性もあるので注意しましょう。
2-3 MS法人として企業が運営をサポートする
形式的に経営主体ではありませんが、企業が「MS法人」として外部から医療機関の経営に携わり、実質的に管理するパターンも検討できます。
MS法人は「メディカル・サービス法人」の略称で、医療機関の経営にかかわる医療行為に属さない事業を行う法人を指します。MS法人自体は法律上に規定されているものではなく、一般的な法人(株式会社など)と同類です。
医療機関は原則として非営利性を担保しなければならないので、一般的な法人と違って営利目的の事業を行うことはできません。しかし、会計・保険請求・医薬品販売・人材派遣など、医療行為以外の事業をMS法人に委託することで、業務効率化や事業拡大へとつながります。
双方にとってメリットが大きい方法ですが、MS法人には税務否認や運営コスト増といったデメリットもあるため、それを踏まえて検討することが大切です。
2-4 一般社団法人を設立して開業する
開設者を「一般社団法人」にすると、医師以外でも実質的に病院・クリニックを経営できるようになります。
一般社団法人は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」などに基づいて設立される、営利を目的としない法人格のことです。医療法人に比べると設立自体は容易であり、なおかつ誰でも理事長になれるので、医師以外でも経営に携わることができます。
ただし、一般社団法人での医療機関開設はその性質上、非営利性が厳しくチェックされる点には注意が必要です。この開業方法を認めるかどうかは地域差が大きく、都道府県によっては認可のハードルが高く設定されているので、状況次第で開業が認められない可能性もあります。
また、一般社団法人の設立からスタートするため、開業まで時間がかかる点もデメリットです。基本的に半年程度はかかると見込んで、開業手続きを進めましょう。
医師以外が病院・クリニックを経営するメリット
医師以外が病院・クリニックを経営する場合、以下のようなメリットが期待できます。
- 院長が開業手続きに手間をとられることがない
- 院長は診療に専念できる
3-1 院長が開業手続きに手間をとられることがない
病院・クリニックを開業する場合、物件探し・医療機器の手配・開業届の申請など、多くの手続きを踏まなければならないので、かなりの手間がかかります。知識・経験のない医師が勤務医として働きつつ、一人で対応するとなると大変です。
しかし、企業などが主体となって開業手続きを進める場合、院長となる医師自身は手間をとられることがないので、結果的に負担を軽減できます。仕事で時間がとれない医師でも、協力を得て開業しやすくなることがメリットです。
3-2 院長は診療に専念できる
開業医として働く場合、財務管理・経営戦略の立案・スタッフ採用など、経営業務もこなさなければならないため、院長の負担が大きくなりがちです。
しかし、医師以外が主体となって開業する場合、先述のような業務を企業の担当者などに任せることができます。そのため、院長となる医師本人は患者さまの診察や治療、学会活動などに専念できることもメリットです。
また、経営やマネジメントで悩むことも減るので、ストレスの軽減につながります。
医師以外が病院・クリニックを経営するデメリット
医師以外が病院・クリニックの経営に参画すると、以下のようなデメリットも想定されます。
- 院長の思うような経営ができない可能性がある
- 利益を出すのが難しい(院長の年収が低くなる恐れ)
メリットだけではなく、デメリットも把握しておきましょう。
院長の思うような経営ができない可能性がある
表面上のトップは院長ですが、経営の主導権は主体となる医師以外が握ることになるので、院長自身が望んでいる経営を実現できない可能性があります。もちろん、提案や要望を出すことはできますが、それが必ず通るとは限らないため、開業医ならではの自由な診療スタイルや働き方から遠ざかるかもしれません。
また、医師以外が経営に携わることにより、経営サイドと現場スタッフとの間に軋轢が生じる可能性もあるので、院長には調整役としての役割も求められるでしょう。
4-2 利益を出すのが難しい(院長の年収が低くなる恐れ)
個人開業医の場合、クリニックの収益はそのまま院長の年収になるため、勤務医の2倍近い高年収を実現しているケースも少なくありません。しかし、医師以外が経営する場合、開業時の支度金を返済しなければならないので、プラスαで利益を出す必要があります。
また、理事長や院長の報酬は人件費となるため、経営状況によっては自分で開業するより年収が低くなる可能性もあります。開業医としての成果を感じられず、モチベーションが下がってしまうかもしれません。
クリニック開業の流れ
クリニックを開業する場合、一般的に以下のような流れで準備を進めます。
- コンセプト・事業計画の策定
診療コンセプトや経営理念を決めてから、収支計画やスケジュールを詰めていきます。 - 開業場所の選定
診療コンセプトやターゲットの患者層を踏まえて、集患しやすい物件を選びます。 - 資金調達
金融機関からの融資も活用しつつ、開業資金を準備します。 - 内装工事
ターゲットの患者層やスタッフの動線を考慮しつつ、内装設計・工事を委託します。 - 医療機器・設備の選定
診療に用いる医療機器、空調やソファーといった設備を用意します。 - スタッフ採用
求人広告を出して、看護師などのスタッフを募集・採用します。 - 集患対策
ホームページやSNSを活用し、開業前から集患を行います。 - 行政手続き
「診療所開設届」などの必要書類を提出します。
5-1 クリニック開業に特別な資格は必要?
結論から述べると、クリニックを開業する際に特別な資格は必要ありません。開設者・管理者となる医師に求められる資格は医師免許または歯科医師免許のみであり、年齢制限も設けられていないため、体力や意欲があれば60代以上の医師でも開業可能です。
ただし、クリニックがある建物全体の収容人数が30名以上の場合、スタッフの誰かが「防火管理者」という資格を取得する必要があります。院長以外のスタッフが取得しても問題ありませんが、退職の可能性を考えると院長自身が取得したほうが確実なので、実質的に必須資格といえるでしょう。
また、必須ではありませんが、開業にあたって「医療経営士」や「医業経営コンサルタント」など、経営に役立つ資格を取得するのもおすすめです。
クリニックの開業・経営は医師が行うのが最もスムーズ
ここまで解説してきた通り、クリニックの経営を医師以外に任せる方法はあります。しかし、開業・経営における制約が多いため、「経営に自信がない」「経営は誰かに任せたい」といった理由だけで、安易に決めるべきではありません。
開業医には多くのメリットが存在しますが、特に「診療スタイルや働き方を自由に決められる」「勤務医より年収が高め」という2点は大きな魅力です。しかし、医師以外に経営権を預けて医師自身は管理者となった場合、先述のメリットが薄れてしまう可能性も高いので、想定外の状況に陥ることも考えられます。
このような事情を踏まえると、クリニックは医師自身で開業準備を進めて、経営も自分で行うのが最も効率的といえるでしょう。
6-1 管理医師(雇われ院長)という選択肢も
「経営に自信がない」「資金面に不安がある」という場合、医療法人の分院などで管理医師(雇われ院長)として働く選択肢もあります。
管理医師はあくまで雇われている立場なので、自分でクリニックを立ち上げる開業医(経営者)とは別物です。しかし、院長として経営やマネジメントなどの業務に携わるので、給与を受け取りながら経営のノウハウを学べます。
また、給与自体も勤務医より高いケースが多いため、開業前に検討してみましょう。
6-2 開業医になるならコンサルタントに相談するのがおすすめ
開業医として働く場合、開業前から多くの準備を進めなければならないうえ、開業後も経営者として診療以外の業務をこなす必要があるので、気が引けてしまうかもしれません。しかし、開業準備や経営を医師以外に丸投げせずとも、外部の専門家に相談してサポートしてもらうという方法もあります。
診療業務をメインとする医師が経営やマネジメントに明るくないのは、むしろ自然なことです。実際、多くの開業医がコンサルタントに相談し、提案やアドバイスを受けて開業を成功させています。
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